2017/11/08

再録51 米TVドラマ史における「コルチャック」後編

 ラス・ベガスは、夜もネオンとライトで活気にあふれた24時間オープンの街だ。その中にマントに、ステッキを持つ吸血鬼が堂々と歩いて獲物を探しているという映像が圧巻で、マシスンの映画クラスに練り上げられたクールなセリフ設計が冴え、夜のビル街の影で殺された女性の死体が、翌日、白昼のベガスのそばのハイウェー近くにある砂漠に横たわっている虚無的な映像は、60年代のアメリカTVにはない新しい時代を感じさせた。

 監督は60年代イギリスでロジャー・ムーア主演の「セイント」や最近映画でリメイクされ公開間近の「おしゃれ㊙探偵」(原題 "The Avengers")、英国版87分署といわれる「ギデオン警部」などを監督して67年にアメリカにへ渡り、TVムービー「ダイヤルMを廻せ」、「マニックス」「スパイ大作戦」「サンフランシスコ大空港」を手がけていたジョン・L・モクシーで、イギリス育ちのゴシック・ムードと現代のクライム・アクションの非情さを合わせた映像タッチが見事で、このTVムービーは38パーセント以上の視聴率を取り、TVムービー史上に残る傑作となった。

 ジェフ・ライスは自分の先輩たちの事件記者ーー警察からの情報だけではなく、独自に粘り強い調査と取材で事件の真相に肉薄し、警察や市、州警察にニラまれても平然と笑っていたタフな男達がいたのであるーーの思い出を1人のコルチャックという人物に結晶化させた。その憎まれ口も自嘲気味の軽口も「ブン屋」のクセで、トレード・マークのストロー・ハットとスニーカー靴もライスが知っていた実在のキシャから借用したスタイルだった。

 プロデューサーは66〜71年、昼のメロドラマに怪奇ゴシック・ストーリーを持ち込み、1245話を放送したアメリカTV史に残る吸血鬼メロドラマ「ダーク・シャドウズ」(日本未放送、怪奇映画「血の唇」はこのTVシリーズの映画化作品)を製作したダン・カーティスで、カーティスもこのライスのアイデアを気に入っていたのだろう。

 二本目のパイロットは、ダン・カーティス自身が製作兼監督となり、「The Night Stranger」(73年1月16日ABC-TVで放送。日本未放送だが、ビデオで発売中)と人間の脳髄液を集める百年を超えるマット・サイエンティストの悪夢を描き出した。

 ユニバーサルTVはこの二本の好評に、TVシリーズ化を主演のダーレン・マクギャビンに打診、マクギャビン自身が総合プロデューサーになり、TVシリーズ化が始まった。

 だが、ユニバーサルが用意した脚本家は「ロックフォードの事件メモ」のデビッド・チェイス、「白バイ警官ジョン&パンチ」や「アメリカン・ヒーロー」のルドルフ・ボーチャートとユーモラスなセリフがうまい若手作家で、ハード・タッチの現代社会のダーク・ゾーンを狙いたいマクギャビンは不満でユニバーサルと大激突(だからハマー映画の「吸血鬼ドラキュラ」の脚本家ジミー・サングスター脚本の「地獄をさ迷う悪霊ラクシャサ」は大のお気に入り。確かに屈指の傑作だった)、「恐怖の切り裂きジャック」や吸血鬼、ゾンビ物と何本かの傑作を出しながら、シリーズとしては20話の短命に終わった。「X−ファイル」に逆照射されて評価が上がり、コルチャックもきっと作品の中で苦笑いしていることだろう。
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以上
Studio Voice Vol.272 1998/平成10年8月1日
特集:恐怖絶対主義
phase 03: Rules & Practices /原理と実践


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