2018/06/30

再録 ジェリー・アンダーソン作品④(全7回)


ファンタスティック コレクション スペシャル 編著者/伊藤英明・池田憲章 朝日ソノラマ
キャプテンスカーレット&ジョー90+ロンドン指令X  アルバム(2005年)

2018/06/29

再録 ジェリー・アンダーソン作品③(全7回)


ファンタスティック コレクション スペシャル 編著者/伊藤英明・池田憲章 朝日ソノラマ
キャプテンスカーレット&ジョー90+ロンドン指令X  アルバム(2005年)

2018/06/28

再録 ジェリー・アンダーソン作品②(全7回)


ファンタスティック コレクション スペシャル 編著者/伊藤英明・池田憲章 朝日ソノラマ
40周年企画 サンダーバード アルバム2(2006年)



2018/06/27

再録 ジェリー・アンダーソン作品①(全7回)

 ジェリー・アンダーソン製作のスーパーマリオネーション作品を取り上げた2冊の<ファンタスティック コレクション スペシャル> (編著者/伊藤英明・池田憲章 朝日ソノラマ):

・40周年企画 サンダーバード アルバム2(2006年)


・キャプテンスカーレット&ジョー90+ロンドン指令X  アルバム(2005年)







から、文字部分を拡大して再録します。

①全ページ(このページ:小さな画像で全体像)
②文章拡大(1)サンダーバード
③文章拡大(2)キャプテンスカーレット p17
④文章拡大(3)ジョー90 p54
⑤文章拡大(4)ロンドン指令X p82
⑥文章拡大(5)英国TVから生まれたヒロイン像 p97
⑦文章拡大(6)後半こそ見てほしい「ジョー90」p123






2018/06/19

再録 アウターリミッツ①(全8回)

SFジャパン2005春号(徳間書店)に掲載された

祝・DVD-BOX発売記念  幻のSFテレビ アウターリミッツ

を全8回でアップします。
①全ページ(このページ:わざと小さめにしています。) 
②文章拡大(1)〜⑧文章拡大(7)
になります。















2018/06/18

再録 『スタートレック』はこうして生まれた 第3回

『スタートレック』(66)がなぜ終わってしまったのか? これはこの作品を支持するファンの人が一度は思うことであろうし、もっともな疑問ではある。今回は、その疑問をそのバックボーンであるアメリカTV状況を中心に考えてみようという試みである。
 今回、触れようと思っているのは、『スタートレック』のSFTV史における位置、『スタートレック』のアメリカTV史における位置、『スタートレック』のSF全体における位置の3点である。総論もその中で、展開していくことになるであろうが、まず、大局的なアメリカTVドラマ史を踏まえて、アメリカTVSF史の概略から突入することとしよう。

    ※    ※    ※

 アメリカSFTV史というものが存在するのならば、1950年代から現代まで、大まかにわけて4つの時代にわけられると思う。以下、詳述しながら触れていこう。
 アメリカにおいて、TV放送が商業的に軌道にのったのは、昭和24(1949)年ころといわれるが、1950年代中期に入り、何人かのTV作家(脚本家)の活躍により、アメリカTVドラマは、第一期の黄金時代を迎える。

『十二人の怒れる男』(54)で知られる良心派の脚本家・レジナルド・ローズ、醜男のため、結婚の相手に恵まれない好人物の肉屋(アーネスト・ボーグナイン)がダンス・ホールで知り合った、これまた美しくない娘と結ばれる『マーティ』(53)で知られる脚本家・バディ・チャイエフスキー、社会派のひとりとして問題作を数々と生み出したロッド・サーリング、庶民の生活を暖かいヒューマニズムを以て描かせては、この人の右に出る者がないとまでいわれたホームドラマの名手・ホートン・フット、職人芸ともいうべき名脚本で大活躍したタッド・モーゼル、デビット・デビットソンなどなど、オリジナルのTVドラマが独自の芸術性を主張していた時代だった。その舞台となったのは、『クラフト劇場』、『USスチール・アワー』、『ジェネラル・エレクトリック劇場』といった屈指の大会社名を冠するドラマ劇場で、質が高い名ドラマを提供して、社会の好ましいイメージを植えつけようとする狙いだった。視聴率やコスト的には、引き合わないものであったが、テレビ局もこれでイメージをアップすることができ、持ち出しで製作するのが現実であった。テレビ界も成長時期であり、スポンサーも一社で提供できるほど、制作費が安い時代の賜物であったのである。

 アメリカの演劇やラジオ・ドラマ、それに映画には、暖かいヒューマニズムとウィットに富んだファンタジー物の流れがあるのだが、それは誕生期のTVドラマの中にも自然現れてきた。そして、その中のいくつかは、TV表現の独自性と相まって最高の効果をあげたのである。こうして、TVドラマの黄金時代に何本ものファンタジーの佳作が生まれた。例えば、妖精や幽霊に出会う話、宇宙人の突然の訪問を受けた小市民の混乱の話、現実に負けて少年時代に逆行してしまう中年サラリーマンの悲劇、魔法使いを呼び出す男のコメディといった物語が続出した。この時代がアメリカSFTVの第一期、TVドラマ黄金時代(54〜60)のファンタジーの時代である。

 TVドラマ黄金時代の作品は、いずれも生放送で、まさにTVドラマ(TV劇)ともいうべき作品だったが、ビデオ・テープやTV映画の普及に従って、50年代後期から次第にビデオやフィルム作品も作られはじめた。お陰で、アメリカ作品を日本でも見られるようになったわけだが、60年代に突入しはじめた時、アメリカTV界は大きな変動の時期に入っていった。オリジナルTVドラマをいくつも生み出した『ロバート・モンゴメリー・プレゼント』、『ラックス・ビデオ劇場』、『カイザー・アルミニューム劇場』、『スタジオ・ワン』、『クラフト劇場』、『マチネー劇場』といった名物ドラマ番組がその放送を終了して、才能ある作家、演出家たちがそのTV局やスポンサーのしめつけに反抗して、TVから去る宣言をして、演劇や映画に移動をはじめたのだ。ローズとともに、TV文芸を支える巨匠であったバディ・チャイエフスキーは、演劇、そして映画に、社会派でならした演出家のジョン・フランケハイマーは映画にと、ほかに何人もの作家や演出家がTV決別の宣言をして去っていってしまった。TVドラマは、いろいろな問題を抱えて、60年代を迎えようとしていたのだ。

 しかし、その中でTVドラマの可能性を信じ、模索し続けている作家もいた。そのひとりが、ロッド・サーリングなのである。ロッド・サーリングは、人間ドラマを描く媒体としてSFを選び、TVドラマの領域自体を変えようと試みた。それが彼自身が制作し、脚本も半分近く担当した『ミステリー・ゾーン』(59)なのであった。すでに放映していた『ヒッチコック劇場』(55)、『空想科学劇場』(56)、『世にも不思議な物語』(59)、『スリラー』(63)、やがては、『アウター・リミッツ』(63)と、SFテレビ界は、変動の60年代を迎え、アンソロジー形式の中にSF感覚をメインに持つ番組として、初めての黄金時代を迎えるのである。これが、アメリカSFTVの第二期、アンソロジー時代(59〜64)のSF番組である。

 この時代の成果は、はじめてTVドラマとSFを結びつけようとしたことで、それは、TVドラマの新領域を開くこととなり、SFとしてもTVドラマという開拓地を得て、新生面を開くこととなり、アメリカ市民にSFを浸透させる大きな力となった。50年代末期は、SFキッド番組、つまり、子供向けSF活劇の大ヒット時代でもあった。『キャプテン・ビデオ』(49)、『バック・ロジャース』(50)、『スーパーマン』(52)と、いくたの宇宙ヒーローが生まれ、そして、消えていった。この時期の成果は、人間ドラマを重視した『ミステリー・ゾーン』、娯楽SFとして目で見るSFに徹した『アウター・リミッツ』という両方向に、確実な実作を残せたことでも立証できると思う。

    ※    ※    ※

 60年代はまた、TVドラマのワイド化と娯楽化の時代でもあった。61年の段階で、CBS、NBC、ABCの三大ネットワークのゴールデン・タイム(アメリカでは“プライム・タイム”と呼ぶ午後7時半〜10時の一番TV視聴者が増える時間帯)のドラマ中、88%までが一時間物TV映画によって占められたのである。ABCのTVプログラミングの副社長・トーマス・W・ムーアは当時、「一時間という時間は、視聴者と製作者の両方にとって、娯楽のための最良の時間である。貴方は一時間以内において、よりよいストーリーを話すことができ、よりよい人間性を用意することができる」と分析していた。また、娯楽化の要素も、ニールセンの資料により、アメリカの各年度の春と秋(3月と10月)のある2週間で、ベスト10に入った番組を62年から68年にかけて調べてみても、シチュエーション・コメディが59本と1/3以上を占め、続いてバラエティが29本(その半分以上がコメディ・バラエティ)、第3位の西部劇が18本で、この60年代の大半をアメリカ人は、コメディと西部劇を主に見ていたことが判明する。しかも、ドラマは62年に3本あったが、63年は2本、64、65年は1本で、後はナシとなり、視聴者が真面目な問題作に注目しないことは歴然とデータで示されてしまっている。

『スタジオ・ワン』、『クラフト劇場』といったドラマ番組の成功が60分枠の基礎を作りあげたという説もあるが、ともかく、60年代中盤に向かい、30分物から60分物へとワイド化が進んだのであった。

 それは、“成人向け(アダルト物)”としての試練でもあった。ゴールデン・タイムで放送される以上、単なる子供物ではない、大人の鑑賞にも耐えうるものとして、作品が完成されねばならなかったからだ。

 この60分物のレギュラー(シリーズを通しての主人公)を持つTVシリーズに、やがて、参加するSFTVにとっても、それは大きな試練だった。並みいる『ペリー・メイスン』(57)、『ローハイド』(59)、『ララミー牧場』(59)、『アンタッチャブル』(59)などの明らかに子供向けではない作品群と娯楽性において、互角に勝負しなければならなかったからだ。

 その最初の勝利者というべきは、プロデューサーのアーウィン・アレンだった。20世紀フォックスTVで、『原子力潜水艦シービュー号』(64)を皮切りに、『宇宙家族ロビンソン』(65)、『タイムトンネル』(66)、『巨人の惑星』(68)と、アメリカTV界の新傾向であるカラー化も含めて、60分物SFTVシリーズの一パターンをこの人は、完全に作りあげてしまったのだ。

 60年代後半、レギュラーを持つSFTVシリーズは、最大の黄金時代を迎える。先のアーウィン・アレンの作品群、シチュエーション・コメディSFの雄『奥さまは魔女』(64)、西部劇とSFとスパイ活劇の合作というブルース・ランズベリー製作の快作『ワイルドウェスト』(65)、アメリカ本国で大ヒットしたコミックSF『バットマン』(66)、ジーン・ロッデンベリーの宇宙SFの傑作『スタートレック』(66)、『逃亡者』(63)で知られるクイン・マーチンプロのサスペンスSFの傑作『インベーダー』(67)と、アンソロジー時代の後を受けて、アメリカSFTVは、円熟のTVシリーズ時代へと入っていくのである。これが第三期のアダルトTVシリーズのSF番組時代(64〜69)である。

 TVドラマは、社会の影響をもろに受ける鏡でもある。60年代後半、アメリカはベトナム戦争が泥沼化することになり、それが引き金となって、政治や政府に対する不信感、反戦運動、女性解放運動、黒人問題、若者のヒッピー化、麻薬の蔓延と、社会の歪みが一気に吹きだした感があり、世界的にあらゆる権威への抵抗感、既成概念への若者文化の挑戦、ニュー・ウェーブ運動、ヤング・ジェネレーションの台頭が巻き起こった。それは、学生運動が激化する日本もまた、例外ではなかった----その中で、日々の娯楽TVドラマの中にさえ、その社会問題を見つめようとする意識が反映されはじめた。
 アメリカ娯楽TVドラマが質的にももっとも高い時期がこの60年代後半なのもその社会と切り離して考えることはできない感がある。

 無罪でありながら殺人犯として追われる主人公・リチャード・キンブル(デビッド・ジャンセン)を描いて大ヒットしたクイン・マーチンプロの『逃亡者』、犯罪ドラマとして、社会の暗部に根ざした社会悪への挑戦と敗北を何度も描いた『ハワイ5-0』(68)、スキャンダラスな内容で人間の暗部を描き大ヒットとなった『ペイトン・プレイス物語』(64)、インベーダーという設定を使い、私たち自身の暗黒部分を結晶化させて描き、非人間性との戦いを描いた『インベーダー』(67)、弁護士物の最高傑作であり、60年代の不滅のTV作品、レジナルド・ローズの『弁護士プレストン』(61)、宇宙SFのあらゆる可能性を使い、差別問題、戦争拒否、人間の可能性とその考え、社会の卑小さを、SFを通して何度も訴えた『スタートレック』などなど、アメリカTVシリーズ中、最良の作品がそれらであった。

 犯罪物の中で、理由なき殺人や暴行、麻薬、社会の腐敗による犯罪が果敢に描かれ出したのもこの時代からであった。そして、アメリカの社会は、病んでいるのではないかという自問と「そうだ」という確信を持ち、現在に至るまで、アメリカTVの犯罪物は『現代』を描き続けている。それは、アメリカTVドラマのもっとも良質な作品群でもある。暴力ドラマとしてしか見ない人が多いのは、極めて遺憾であり、残念でならないということを特に言い添えておきたい。

    ※    ※    ※

 昭和43(1968)年6月5日、『スタートレック』の終了にも影響を与えたのでは、と思われるある事件がアメリカに起こった。ロバート・F・ケネディ上院議員が兄の大統領に続き、再び銃弾に倒れたのである。この事件は、大変な社会問題となり、アメリカ人は、自らになぜこんなに暗殺が続くのか、と自分たち自身に問わざるをえなくなった。
 TV界への影響を端的に記したよみうりTV発行の『アメリカのテレビ その実態と教訓(よみうりTV編・69年10月発行)』から、その部分を引用してみよう。

『ジョンソン大統領は事件発生直後直ちに特別委員会を設けて、暴力の原因を究明し、その防止策を研究することを命令した。その中で大統領はとくにテレビなどのマス・メディアについて「家庭や若者たちのところに到達する電波やニュース、彼らが近所や劇場や映画館で見るスクリーンやその他いろいろな形の情報によって“暴力の種”が育成されるかどうか」という問題を提起し、テレビとラジオのネットワークの首脳者やFCC(電波の監督に当たる連邦通信委員会)の委員たちに、この委員会に協力するよう要請した。各ネットワークの首脳者はこれに応えて時を移さず緊急会議を開き、テレビ番組からの暴力排除の方向を協議した。その結果、これから制作するものについては殺傷場面のある物は中止するとかストーリーを書き直すとかし、すでにできあがったものあるいはオンエア中のものについては、一部をカットするとか撮り直しをするということになった。これまでのアクション・ドラマには必ずといっていいくらい格闘や撃ち合いや殺しの場面が付きものとなっている。視聴者がそれを喜ぶからだ。この場面をカットしたりコミックなアクションに替えたり、ピストルやナイフをツチやメスに替えたりしたら、気の抜けたものになってしまうが、そんなことを言ってはおられない。『バークレー牧場』、『シマロン街道』、『ガン・スモーク』、『ハイ・シャパラル』、『ボナンザ』などの西部劇、『FBI』、『アイ・スパイ』、『スパイ秘作戦』(これのみ英作品)などのスパイ物はもちろんのこと、『いたずら天使』、『パパのオヤジは30歳』、『おお猛妻イブとケイ』、などコメディものまで大ナタが来シーズン(1969〜70年)の番組編成にも及び、アクション物29本、劇場用映画3本に一本が問題になっていると言われ、結局、当たり障りのないコメディやバラエティが増えることになるだろうということだ』(一部引用者が注釈、および、日本題名にタイトルを変更した)。

『スタートレック』がこの中に入っていたことは充分予想され、製作費の高騰とともに、このような問題もあって、『スタートレック』は、その幕を閉じたのである。

 アーウィン・アレンは、『巨人の惑星』(68)を最後に、スペクタクル映画の古巣に戻り、ジーン・ロッデンベリーは、『スタートレック』の後、TVムービーに転じて、アメリカSFTVは、ひとつの空白期間に突入した。70年を境に、あれほど活況を呈していたSFTVは、めぼしい作品も現れず(わずかに気を吐いたのは、グレン・A・ラーソン、レスリー・スティーブンス、ケネス・ジョンソンくらいなものだ)、これはという決定版も現れないまま、時間だけが過ぎ去っている。第4期の混迷化する現代SFTVとは、そのままアメリカのTVドラマに当てはまる言葉だと思えるのは、果たして、筆者のみなのだろうか。苦闘を続け、この混迷を突破せんとしているアメリカTVドラマ人の健闘をただ祈るのみである。
    ※    ※    ※
 いささか余談が過ぎた感もあるが、『スタートレック』は、『大研究1』と『2』で触れた通り、“SF”というジャンルを使って、ロッデンベリーとそのスタッフが常日頃考えていたさまざまな問題(それは、当時のアメリカTV映画では描けなかったベトナム戦争への怒りや政治の暗部、人種差別やあらゆる偏見、セックス、人間の可能性など、あらゆるもの)を含んで、第一級の娯楽TV作品作品を目指して作られたTV映画であった。
 それがすべてだったとも思うし、SFにとっていえば、TVという舞台で、はじめてシリーズ物として、『宇宙船ビーグル号の冒険』のような雄大なスケールとさまざまな価値観を持ち込めることを実証した作品であった。いわば、SFTVシリーズの可能性の大きさを示してくれたのである。
 この作品の大きさをSFが支えていることをSFファンのひとりとして誇りに思う。そして、この物語が79本ではなく、無限の可能性を持つことを今、筆者は確信する。これだけで、充分ではありませんか。

初出『スーパービジュアルマガジン スタートレック大研究3』1982
(6787W)

2018/06/17

再録 『スタートレック』はこうして生まれた 第2回

 前回、やや説明を急ぎすぎたため、セカンド・パイロットの前後が混乱して、誤ったことを書いてしまった。その訂正をしてから、第2回のメイキングに入ることにしよう。
 ファースト・パイロット「The Cage」は、NBCのお気に召さず、セカンド・パイロットが作られることになったことは、前回、触れた。そのために、NBCへロッデンベリーが提出した脚本の数は、実は3本だったのである。

 それは、米中の対立を意識させる「The Omega Groly」、悪漢ハリー・マッドが登場する「Mudd’s Women」、超能力物の「Where No Man Has Gone Before」のそれぞれであった。
 NBCは、その中で正攻法のSF物であり、要求していた合成シーンがふんだんにある、題材としても魅力的な超能力者物「Where No Man Has Gone Before」をセカンド・パイロットに決定した(ほかの2本ものちに、それぞれ第52話『細菌戦争の果て』、第6話『恐怖のビーナス』として、実際に制作された)。

 脚本が提出されたのが昭和40(1965)年6月初旬、そして、セカンド・パイロットは、7月19日から撮影に入っていった(ちなみに、脚本は第1稿が5月27日、第2稿が6月28日、改訂決定稿が7月8日と、4段階を経ている)。

 船長や乗組員のキャラクターは、スポックを除いて一掃され、船内の装備、制服、スポックのメイクなども、ファースト・パイロット版とは、微妙な相違をみせている。スポックのメイクに関しては、「The Cage」を担当したデジル・スタジオのフレッド・フィリップスに代わって、『オズの魔法使い』(39/監督:ヴィクター・フレミング)を担当した名人ジャック・ダンの息子・ロバート・ダンが担当していた(のちに、ロバート・ダンは、『スパイ大作戦』(67/フジテレビ)で、マーティン・ランドーの驚くべきメイクの数々を生み出していく)。ダンは、またゲーリー・ミッチェルが超能力を次第に得るたびに、その鬢の髪をグレイにしていく、という入念さをみせていった。全編の光線やエネルギー、発光する眼など、アニメーションや合成の入念な作業であり、ファースト・パイロットから使用されはじめたマット・ペインティングの惑星建造物は、『スタートレック』の宇宙スケールを確立させる感があった。

 昭和40(1965)年10月、デジルプロのほかの2本のパイロット・フィルム「Police Story」(デフォレスト・ケリーが警察医を、グレース・リー・ホイットニーが女刑事の役を演じた警察物)、「The Hunt of April Sa-vage」(家族を殺された主人公の復讐を描く異色西部劇)を片づけたジーン・ロッデンベリーは、この『スタートレック』のセカンド・パイロットを終了させるのに、ようやく自由な身体となった。

 ジーン・ロッデンベリーは、このセカンド・パイロットに全力を尽くした。もし、この作品でNBCのOKが取れなければ、『スタートレック』の世界は、陽の目をみず、永遠に死んでしまうからだ。音楽、音響効果、オプチカル処理が何度も変更され、10月、11月、12月と月日は矢のように過ぎ、スタジオ首脳陣の圧力が次第に強くなっていった……。その中でも耐えきり、作品の完成度を目指した作家ジーン・ロッデンベリーの苦労は、決して無駄ではなかった。昭和41(1966)年1月、ニューヨークのNBC首脳陣に提出されたセカンド・パイロットは、2月中旬には、シリーズ化OKの答えを、ロッデンベリーにもたらしたのだ。

 エンタープライズの乗員は、この段階で、さらに整理が加えられ、秘書のスミス、ドクター・パイパー、コミュニケーション主任・アルデンが消えて、物理学者・スルーは、ヘルムスマンに設定を変えた。シリーズ化にともない、ウィリアム・シャトナー、ジョージ・タケイ、ジェイムス・ドーハンが契約にサインをした。そして、「Police story」の警察医・デフォレスト・ケリー、女刑事グレース・リー・ホイットニーをドクター・マッコイ、秘書のランドとして迎えて、アルデンの代わりに同じ黒人のニシェル・ニコルスをウラ中尉に、一度は去ったメージェル・パレットを看護婦・クリスチン・チャベルとしてレギュラー化し、ここに『スタートレック』のレギュラーは、態勢を整えるのである。
 シリーズ化の第1作は、第10話として放映された「謎の球体」(原題「The Cordo-mite Manueuver」)で、昭和41(1966)年5月末からその撮影ははじまった。

 しかし、ジーン・ロッデンベリーの苦労は、それからが本番であった。バランタイン・ブック「The Making of STAR TREK」によると、その放映開始時、『スタートレック』は、16本分の契約しか取りつけていなかった。視聴率が悪ければ、続行されず、そのまま終わってしまうネットワークのやり方だったのである。

    ※    ※    ※

 ジーン・ロッデンベリーを支えるプロデューサーであり、脚本も多数執筆したジーン・L・クーンは、前記の「The Making----」の中で、ジーン・ロッデンベリーは、全く新しい宇宙世界を創造した、と絶賛を贈っている。事実、その詳細な設定、各スタッフに送った内容設定の指示の数々は、驚くべきもので、これほど緻密な設定を持つSFTVは、おそらくこれからののちも出現しないと思う。ぜひ、バランタイン・ブックスに収められたロッデンベリーのスタッフたちに送った手紙を読んでいただきたい。ひとりの企画者・プロデューサーが自作のイメージをここまで持ち、ふくらましえるものかと、あなたも驚かれると思う。何度もいうように、ジーン・ロッデンベリーこそ『スタートレック』のすべてを握る人物だったのである。

    ※    ※    ※

 さて、前回のお約束通り、今回は、特撮についても少し触れてみたい。触れるのは、ミニチュア、メーキャップ、合成、マット絵の各パートについてである。

『スタートレック』のファースト・パイロットである「The Cage」の特撮を担当したのは、ハワード・A・アンダーソンの会社であった。物語のもっとも重要な要素であるUSSエンタープライズのデザインについては、ジーン・ロッデンベリーは、ある腹案(イメージ)を持っていた。ロケットでも、ジェットでもなく、ある新しい動力を使い、宇宙空間を疾駆する宇宙船……美術監督・パット・ガッツマン、そして、美術助監督とシリーズの総合デザイナーとなるマット・ジェフリーズは、ロッデンベリーの依頼を受け、そのデザインに入った。ジェフリーズは、ノースアメリカン社、ダグラス社、NASAなどを訪ね、科学者や技術者と相談し、その動力、デザインを模索した。ランド・コーポレーションのハーベイ・リンの力も借り、ようやくジェフリーズの案は固まる。そして、描かれた何点かのラフ・スケッチの中にやがてジェフリーズが気に入るものが現れた……円盤形の船体、タバコ状の小さな第二船体、二本のエンジン・ポッド----その段階で、エンタープライズの特異なデザインは誕生を見た、と言ってよい。

 早速、ジェフリーズは、木製でそのモデルを制作してみた----そして、ロッデンベリーの意見や細部の直しを経て、エンタープライズのデザインは完成する。

 「The Cage」に使用するため、ハワード・A・アンダーソン・カンパニーは、最終デザインを得てミニチュアの制作に入った。ダレン・アンダーソンの指揮の下、20人の技術者がそのスタッフとなった。当然、そのスタッフは、ロッデンベリーやジェフリーズに会い、デザインの未整理な部分を修正していったに違いない……。

 アンダーソン・カンパニーは、3体のミニチュアを作りあげた。まず、4インチ(約12センチ)の遠景用木製モデル、よりディテールが細かい3フィート(約90センチ)の木製モデル、そして、最大の12フィート(約3.6メートル)のミニチュアである。すでに、昭和39(1964)年9月には、このミニチュアは完成していた。

 この最大のミニチュアは、撮影終了後、アメリカのスミソニアン航空博物館に展示され、今でも見ることは可能である。ワイヤーで吊られたエンタープライズ。だが、撮影中のエンタープライズは、ワイヤーで吊る方式ではなく、ポールで固定し、ブルースクリーンの部分に、後で宇宙を合成するわけで、『スタートレック』の宇宙空間の奥行きは、その撮影方式の成果であった。

 この最大のミニチュアは、ほかのモデルと相違点があった。エンジン・ナセルの前方のカップにアンテナが突き出し、そのナセルの後部が発光する球体となっていたのである(エンタープライズの形が時々変わるのは、そのためなのである)。そのマター・アンチマタ−エンジンの前部の光が回転し、各所のライトが点滅した。

『スタートレック』の宇宙船モデルは、すべて合成方式を用いて、カメラを動かす手法で撮影された。この手法は、やがて、コンピュータを導入したダイクストラ・フレックスとなり、技術的に完成をみるが、『スタートレック』の宇宙シーンは、60年代SFTVのひとつの頂点となっていく。

 また、宇宙シーンには欠かせない各惑星は、ウェストハイマー・カンパニーの手で作られた。黒白に塗られた惑星のモデルを作り、フィルターを変えて色をつけ、オプチカル・プリンターで合成するだけで、ほとんどの惑星はひとつのミニチュアで撮影された。その惑星のサイズは、約2フィート(60センチ)の大きさであった。

『スタートレック』の惑星世界は、多く、“オプチカル・ペインティング”というガラスに描いた絵とセットを合成する手法で行われた。ファースト・パイロット版で、幻想の世界を描く際に使われたのを皮切りに、第3話「光るめだま」のデルタ・ベガ星、第20話「宇宙軍法会議」の第11宇宙基地、第23話「コンピュ−ター戦争」のエネミア7、第25話「地底怪獣ホルタ」のジュナス6と多数の作品で使用されていった。画面のはじにセットを合成しているところがミソで、時々、まるで絵に見えてしまう時もあるのだが、『スタートレック』の独特のムードを確立したといえそうだ(この手の特撮の流用はよくあることで、『光るめだま』に登場したデルタ・ベガ星は、少し修正して、第9話『悪魔島から来た狂人』のフィモ植民星に使われていた----前号参照)。

 転送シーンも、ハワード・アンダーソン・カンパニーの手で作られた。ロッデンベリーは、毎回、登場するこの光学処理のシーンを見せ場として望み、スタッフはその要求に見事応えた。十近い行程を経る撮影と合成は、この転送というイメージを、まさに目で見るSFとして確立させていた(ロッデンベリーの転送シーンのメモは、“ピーターパン”の光のきらめきと書いてあるという。転送の原形イメージが妖精の光というのは、とても興味深い)。

 ファースト・パイロット版に登場するハンド・レーザー、コミュニケーターを作ったのは、ハリウッドの有名な特殊効果のアーティスト、ワー・チャンである。チャンは、ジム・ダンフォースやジーン・ワレン、ティム・バーたちと“プロジェクト・アンリミテッド”という組織体を作り、『タイム・マシン 80万年後の世界へ』(60/監督:ジョージ・パル)、『すばらしき世界』、『ラオ博士の七つの顔』(64/監督:ジョージ・パル)の特殊メーキャップと効果を担当した人物である。SFTV『アウター・リミッツ』(63)では、このメンバーがストップ・モーション特撮、怪物や特殊効果のスタッフとして腕を振るっていた。この組織が解散した後、ジーン・ワレンと、“エクセルシィア・カンパニー”を設立、チャンは、『スタートレック』の仕事に参加していく。

 チャンは、さまざまな物をデザインし、小道具を作りあげていった。シリーズ用のフェイザー銃、コミュニケーター、トライコーダー。「謎の球体」のベイロック人形、「惑星M113の吸血獣」のソルト・モンスター、スポックのバルカン・ハープ、ロミュランのヘルメットとバード・オブ・プレイ、「ゴリラの惑星」の原始人、「怪獣ゴーンとの決闘」のゴーン、「新種クアドロトリティケール」のトリブル……と、『スタートレック』を造型の面から支え続けた。

    ※    ※    ※

『スタートレック』を見ていて、驚くのは、その合成シーンの多さである。宇宙シーンは、すべて合成であるし、フェイザー、転送シーン、変身シーンなど、『スタートレック』はついには、コスト高で製作が中止になるわけだが、思わず納得する感じがあった。

 アーウィン・アレンの諸作『原子力潜水艦シービュー号』(64/NTV・東京12チャンネル)、『宇宙家族ロビンソン』(66/TBS)、『タイムトンネル』(67/NHK)、『巨人の惑星』(69/東京12チャンネル)は、そのあたりをうまく逃げていることがわかると思う。シービュー号もフライング・サブも合成しているわけではないし、ロビンソンはたまにしか宇宙へ出ないし、巨大怪獣すらモノクロの時のみの登場である。『タイムトンネル』も流用とストックフィルムでコストをおさえている----L・B・アボット指揮する20世紀フォックスの特撮シーンは、見事の一語なのだが、この低コスト化がうまくいっているあたりが、職人・アーウィン・アレンのうまさなのかもしれない。

『宇宙家族ロビンソン』と企画すら、ほとんど同時にはじまった『スタートレック』だが、ロッデンベリー自身あの作品だけには、と負けん気を燃やしたことだろう。
 当初こそ、宇宙飛行シーンや巨大怪獣があるものの、漂流してしまった後の展開では、やはり、『スタートレック』のスケール感覚には一歩譲る気配があった(もっとも片方は、子供を主体とした家族向け、片方はハイ・ティーンを目的とした大人向けという両作では、比べる方が間違いなのかもしれないが……)。

 特撮のゲストでは、第14話「宇宙基地SOS」のパード・オブ・プレイとの宇宙戦のイメージ、第35話「宇宙の巨大怪獣」のドームズデイ・マシンの盛りあがるラスト(破壊されたコンステレーションは、AMT社のエンタープライズのプラモデルを改造したものだ)、第47話「単細胞生物との激突」で、珍しくもアニメーションで表現された単細胞生物、第62話「宇宙の怪! 怒りを喰う」と第68話「トロイアスの王女エラン」に登場するクリンゴン宇宙船との死闘、第64話「異次元空間に入ったカーク船長の危機」で、エネルギーのクモの巣を張りめぐらすソリアン宇宙船……といったところが主な印象に残る特撮だろうか。

『スタートレック』がなぜ、第3シーズンで終了したのか、それについてアメリカのTV状況とあわせて、次回に考えてみたい。遅ればせながら、総論も掲載する予定である。

初出『スーパービジュアルマガジン スタートレック大研究2』1981

2018/06/16

再録 『スタートレック』そのメカニックの魅力

 以前、スーパービジュアルの『謎の円盤UFO』の中で、『2001年宇宙の旅』(68/監督:スタンリー・キューブリック)の各メカニック、そして、『謎の円盤UFO』(70/NTV)のインターセプターが、流体力学的な流線型メカの常識を打ち破った双璧ではないか、と書いたところ、読者から、「あの“エンタープライズ”を忘れるとは、何ごとですか!?」という熱心な手紙を受け取った。実は、あれは10年なり、30年なり、近未来に確実に実現できそうで、しかも、理にかなった先の二者のリアルさの衝撃を書きたかったのだが、この読者のいいたいことも十分に納得できる。思えば、SF映像は、1960年代に突入し、新しいメカニック感覚をいくつも生み出しはじめていた。映画でいえば、アーウィン・アレンが製作・監督した『地球の危機』(61)に登場した原潜・シービュー号、20世紀フォックス映画の『ミクロの決死圏』(66/監督:リチャード・フライシャー)に登場した潜水艦・プロテウス号、そして、MGM映画の『2001年宇宙の旅』、そして、映画以上に活発化したのが、TV界だった。

 アーウィン・アレンが製作した『原子力潜水艦シービュー号』(64/NTV・東京12チャンネル)の第2シーズンから登場した飛行潜水艇・フライング・サブ、そして、新シービュー号、『宇宙家族ロビンソン』(66/TBS)に登場する宇宙船・ジュピター2号、探検車、ロボット・フライデー、『タイムトンネル』(67/NHK)に登場する地下800階に存在する航時機・タイムトンネル、『巨人の惑星』(69/東京12チャンネル)に登場した大気圏外を飛行し、人々を高速で運ぶロケット・スピンドリフト号、そして、ロッデンベリー製作の『スタートレック』(69/NTV)に登場したUSSエンタープライズ……米ソの宇宙開発が活発化し、アポロ計画が着々と進行していった1960年代後半、SFメカは次第にリアルに、そして、存在感を強く持ちはじめていたのだ。同じころ、イギリスでは、ゲーリー・アンダーソンのチームが続々と、SFメカを生み出している。『海底大戦争』(64/フジテレビ)に登場する原子力潜水艦・スティングレイ、『サンダーバード』(66/NHK)の国際救助隊メカにゲストメカ、そして、『キャプテンスカーレット』(68/TBS)、『謎の円盤UFO』、『スペース1999』(77/TBS)と、その姿勢は、ここ10年以上にわたって首尾一貫し、そのメカ感覚は見事ですらある。そして、日本でも内外の影響を受け、東宝SFで、独自で生み出してきたメカ感覚の流れの中で、『ウルトラセブン』(67/TBS)、『マイティジャック』(68/フジテレビ)というひとつの頂点を円谷プロが生み出していた……“メカニックSF”というものが、もし、存在するものならば、1960年代後半は、アメリカ、イギリス、日本とも、映像的には、ひとつの頂点に達する感すらあったのである。

 その中でも、ロッテンベリーが製作した『スタートレック』は、ほかの作品と一線を画す驚異的な作品であった。

 400名以上の乗員を乗せ、光速をはるかに超えるワープ航法で、宇宙を飛ぶ宇宙パトロール艇・USSエンタープライズ、その全長は、優に200メートルを越える大型宇宙船である。このような巨大メカニックが宇宙を舞台に縦横に活躍する……およそ、空前絶後のスケールであり、“宇宙歴400年”という遠未来の感覚がこの設定を力強く支えていた。この作品のメカの魅力は、次の3つに絞れると思う。

1.  エンタープライズのデザイン

およそ、あまたの宇宙船あり、といえどもこのUSSエンタープライズほど、独特のフォルムを持つ宇宙船はないのではないか。その居住区となる円盤形の第1船体、葉巻のような第2船体、両側に突き出た2本のワープ・エンジン……この作品が日本へ紹介された時、ある少年雑誌に至っては、エンタープライズの写真を上下逆さにして掲載してしまった。それも無理ではない、と思うほどのデザインで、その科学考証的な賛否をおいても、視聴者を十分にひきつける魅力を持っていた。また、その宇宙を飛ぶ特撮が、すべて合成によって行われており、その奥行き、そして、スピード感は、同種の番組の中でも屈指のものであった。エンタープライズ抜きに、『スタートレック』の魅力は、とても語れないのではないだろうか。

2.  小型メカの充実

エンタープライズが惑星の衛星軌道にとどまる設定のため、地表におりる乗員は、さまざまな小型メカニックを装備している。連絡のためのコミュニケーター、科学調査用のトライコーダー、生物反応をみるメディカル・トライコーダー、攻撃武器であるフェイザー・ガン、ハンド・フェイザー、ドクター・マッコイの持つ各種の医療器具、そして、修理用に登場する各種の工具メカ。コンパクトで、しかも考え抜かれており、かつてのSF映画の名作『禁断の惑星』(56)などにその原形がみられるものの、TVSFでここまでやってのけた作品となると、やはり、この作品以外には、存在しないと思う。宇宙歴400年代という未来感覚をこの小型メカの数々が支えていることは、想像にかたくない。そのさりげない使い方が日常生活の描写を支え、そして、宇宙時代のメカという雰囲気を生み出していくのである。

3. リアルなブリッジ

『スタートレック』の物語の大半は、その司令室ともいうべきブリッジで行われる。このブリッジが実に考え抜かれており、各班のチーフが勤務し、正面にメイン・スクリーンがあり、エンタープライズのすべての情報がそこに集結する。

 まさに、エンタープライズの頭脳ともいうべき場所なわけだが、舞台をそこに集結できるため、物語の展開が、実に、スムーズであり、多人数のレギュラーを常に一堂に会することができる、というTVドラマを作るうえでの利点も見逃すことはできない。このブリッジの感覚を映像で完璧にみせたのは、やはり、この作品からであり(原型が『禁断の惑星』や『原潜シービュー号』など、いくつかあるのはあるのだが)、『宇宙戦艦ヤマト』(74)や『スペース1999』などに、その大きな影響をみることができる。このブリッジの設計の見事さは、『スタートレック』の科学考証の正確さを実証する端的な例といえるのかもしれない。

    ※    ※    ※

 エンタープライズばかりではなく、バード・オブ・プレイ、クリンゴン宇宙船、ドームズデイ・マシン、ソリアン宇宙船など、ゲストメカにも宇宙SF物の魅力とスケールを感じさせる印象的なものが多く、何度かあった宇宙船同士の戦闘シーンは、ファンの心をシビレさせた。

 『スタートレック』は、アメリカTVSF史上に輝く宇宙SF物の傑作である。人類と数多くの宇宙人が作りあげた宇宙文明の世界……大型宇宙船を駆って行われる調査とパトロール……それは、メカのひとつの極致のイメージではないだろうか。

2018/06/04

再録 60年代は食う寝るテレビ①(全3回)

ポパイ (POPEYE Magazine for City Boys) 1979/12/25
 from 60’s on. 
 ‘60年代を知らなければ、僕たちの’80年代は面白くならない

の中の「60年代は食う寝るテレビ……が3大要素!」で岩井田雅行さんと執筆されたTV番組紹介のうち池田さん担当分を3回に分けてアップします。



2018/06/03

再録 『スタートレック』はこうして生まれた 第1回

 1949年に、ロサンゼルスの警察官となったジーン・ロッデンベリーは、職務のかたわら、TVのシナリオを書くという生活を続けていたが、そのシナリオの収入のほうが本職の警察の仕事より多くなったことに気づいた1954年、ジーン・ロッデンベリーは、警察を退き、フルタイムのTV作家となった。彼が脚本を書いた作品は、『ドラグネット』(51~59)、『フォー・スター・シアター』(52~59)、『ドクター・キルデア』(61~66)、『西部のバラディン』(57~63)(この作品は、ジーン・ロッデンベリーが脚本の主筆であった)、『ハイウェイ・パトロール』(55~59)、『カイザー・アルミニューム・アワー』、『裸の町』(58~63)、『ウェスト・ポイント』(56~)等多数、ロッデンベリーは、おしもおされぬTV作家に成長していった。

 そして、1963年、MGMテレビ作品『ルテナント』で、自ら創案、プロデューサーも担当し、製作者としての技量も見せはじめた。そして、このころから、ジーン・ロッデンベリーは、本気で『スタートレック』の検討をはじめていたのである。一年で終了した『ルテナント』にかわる作品をMGMテレビは求め、ロッデンベリーが提出したものこそ、『スタートレック』のはじめて世に出た設定書だったのである。時に、1964年3月11日、16ページの『スタートレック』の設定書がそれであった。

 この設定書は、バランタイン・ブックの『THE MAKING OF STAR REK』に収録されているため、現在でも容易に読むことができるが、細部が一番最初のものとかえてある。USSエンタープライズの名がUSSヨークタウンであったとか、ナビゲーターの名がタイラーではなく、オルテガであったとかの部分である。

 また、バランタイン・ブックの同書には、収録されなかったが、この『スタートレック』のはじめの草案には、25の可能なエピソードのタイトルと短い内容が記されていた。いい機会なので、そのタイトルと実際の作品への移動を記しておこう。

1 “The Next Cage”
2 “The Day Charlie Became God”
3 “President Capone”
4 “To Skin a Tyrannosaurus”
5 “The Women”
6 “The Coming”
7 “The Perfect World”
8 “Mr. Socrates”
9 “The Stranger”
10 “The Man Trap”
11 “Camelot Revisited”
12 “100 A. B.”
13 “Kentucky,Kentucky”
14 “Reason”
15 “Reason Ⅱ”
16 “A Matter of Choice”
17 “The Radiant One”
18 “The Trader”
19 “A Question of Cannibalism”
20 “The Mirror”
21 “Torx”
22 “The Pet Shop”
23 “Kongo”
24 “The Vanus Planet”
25 “Infection”

 1の“The Next Cage”と16の“A Matter of Choice”は、組み合わせて最初のパイロット・フィルムの“The Cage”となり、2の“The Day Charlie Became God”は、第2話の「セイサス星から来た少年」“CharlieX”、5の“Women”は、第6話の「恐怖のビーナス」、“Mudd‘s Women”、10の“The Man Trap”は、第15話の「おかしなおかしな遊園惑星」“Shore Leave
”等々、ほかにも数本あるが、『スタートレック』のイメージが、もうこの時期で、かなり正確なものになっていることがわかる。まさに、『スタートレック』こそロッデンベリーの作品なのであった。

 エンタープライズの船長がまだこの時期は、ロバート・T・エイプリルで、不屈の強さと多彩な個性を持つ船のリーダーである、と書かれていた。この言わば、のちにパイク、カークとなるキャラクターは、その人物の部分に、“宇宙世代のホレイショ・ホーンブロワー艦長”とあり、人間的な魅力をかねそなえて、失敗もすれば、恋もする主人公を狙っていたことがよくわかる。

 U・S・Sエンタープライズは、ここでは19万トン、人員203名、動力としてスペース・ワープを使用し、アメリカの地球の宇宙船の所属と紹介されている。
 この企画書で興味深い点は、“この物語の設定は、宇宙の幌馬車隊である”という部分であろうか。異なる世界を旅する主人公達は、危険や冒険と出会い、そこに物語が展開する----アメリカ人になじみ深いこのようなイメージは、『スタートレック』の原的イメージを見るようでなかなか楽しい。

 この銀河全体や登場人物、狙いなどを詳細に記した企画書は、MGMテレビに提出されたが、そのテレビ化の話は、結局、あがらず、ロッデンベリーは、この企画を『アイ・ラブ・ルーシー』(51~57)で知られる独立プロ、デジル・プロへと持ちかけた----。
 デジル・プロの仲介で、三大ネットワークのひとつ、CBSから好意的な反応をひきだしたロッデンベリーは、会長をはじめ、重役陣のいならぶ中で、二時間も熱弁をふるい、SFテレビは妥当な制作費で制作でき、十分視聴者もひきつけられると力説した。そして、ロッデンベリーは、内心ついに売り込みに成功したと思った。ところが、その重役のひとりは、こう言ったのである。

「なかなかいい企画だ。しかし、残念ながらこちらは、もっと気に入った作品があるのだ。しかし、君が来たことは評価している」
 と。その作品こそ、アーウィン・アレン製作のSFテレビ『宇宙家族ロビンソン』だったのである。
 しかし、捨てる神あれば、拾う神あり。1964年5月、もうひとつの三大ネットワークのTV局であるNBCの番組担当重役が、この企画に関心を示し、『スタートレック』の設定を使い、二万ドルの稿料つきでパイロット・フィルム用のシナリオを三本書くように指示してきたのである。

 ジーン・ロッデンベリーは、ただちにシナリオを三本執筆し、その中の一本“The Cage”が選ばれて、パイロット・フィルムが製作されることになった。
 ようやく、ジーン・ロッデンベリーが目ざす大人の鑑賞に耐える、レギュラーを持ったSF連続娯楽ドラマがその一歩を踏み出したのである。

 物語は、第11、12話「タロス星の幻怪人」の中で描かれる18年前の部分で、最後のシーン、四本足の怪物を除いては、ほとんど原形通り。最初のストーリー・アウトラインが6月29日、シナリオ第一決定稿が9月8日、光学合成着手が9月、作品の完成が11月後半から12月初旬というスケジュールであった。船長は、ロバート・T・エイプリルからクリストファー・パイクに変更、船内の乗員も設定と少し変わり、ミスター・スポックが大きくクローズアップされはじめた。しかし、このパイロット・フィルムは、NBCのお気に召さず、セカンド・パイロット・フィルムとして、船長をSFや恐怖もののTVにはなじみが深いウィリアム・シャトナー演じるジェイムス・T・カークに変更、コスチュームもさらに明るく軽いセーター型となって、“Where No Man Has Gone Before”が製作されたのである。ロッデンベリーがラフでこの2本目の話を書いた時のタイトルは、“The Omega Glory”であった。この物語の脚本は、NBCのヒット西部劇シリーズ『西部の対決』(60)の脚本を書いていた、古参のSFファンで作家のサミュエル・A・ピープルスが担当した。

 シリーズの決定は、1966年まで持ち越されたが、このセカンド・パイロット・フィルムによって、NBCはOKを出し、出演陣もさらに整理が加えられ、ジョージ・タケイ演じるスルー、デフォレスト・ケリー演じるドクター・マッコイ、カークの秘書であるジャニス・ランド(グレース・リー・ホイットニー)の登場を迎え、いよいよ『スタートレック』は、その出発点に立ったのである。

 ジーン・ロッデンベリーの長い間の願いは、ようやくその実を結ぼうとしていた。ロッデンベリーは、この企画さえ通れば、SFをフルに利用し、TV界が持つさまざまな障害を越えられると考えていた気配がある。事実、アメリカTV界は、野心的な作家にとって、横たわる障害は大変な難物だった。

『ミステリー・ゾーン』(59~64/原題:『The Tilight Zone』)のプロデューサーであり、ライターでもあるロッド・サーリングが“Noon Of Doomsday”というシリアス・ドラマを書いた時などは、その典型とも言うべき形になっていた。このドラマは、南部のミシシッピー州で起こった黒人青年の殺人事件を描いたものだが、白人と黒人の対立問題は描くべきでないとか、南部を舞台にするべきではないとか、南部の主要飲料であるコカコーラには一切触れるな……という局側やスポンサー側の圧力のため、黒人をユダヤ人に変え、南部をニューイングランドに改め、いろいろ手直しをしたために、ドラマがメチャクチャになってしまったということが起こった。アメリカTV局に現実として存在する思想上、政治上、人種上の各種の制限が(スポンサーや局のからみが)、まさにドラマの息の根をとめてしまったのだ。ロッド・サーリングが『ミステリー・ゾーン』を製作するに至るのは、この障害との戦いにアキアキしたからだという意見もある。スポンサーや放送局は、SFやファンタジー・ドラマなどの寓話でならば、どんな重いテーマ、辛辣なストーリーもやすやすと見逃してくれるからだ。ここにSFを使おうとする者とSFのみを描こうとする者の差が出てくる。そして、ジーン・ロッデンベリーもまた、SFをフルに使って、彼が常日ごろ、考えていたさまざまな問題(それは、当時のアメリカTV映画では描けなかったベトナム戦争への怒りや政治の暗部、人種差別や偏見、セックスなどいろいろなものを含んで)をSFを通して語りはじめたのである。

『スタートレック』がなぜ、すぐれているのかという検討を続けていくと、その物語のテーマ性が浮かびあがってくる。連続ドラマでありながら、各エピソードにつけ加えていくテーマの数々は、それまでの子供向けのSF番組からは考えられないような知的なものであった。
『スタートレック』は、言わば、普通の大人が見ても、知的に満足できる作品をめざしたのではないか。随所の各キャラクターの会話の妙は、同種のSF番組の中では考えられぬ異色なものであったのである。

『スタートレック』は、1966年TVシリーズ化が決定し、プロジェクトが動きはじめた。それからの展開は、次号、さらにその次の号で触れていくことになろう。次号には、特撮にも少し触れる予定だ。

初出『スーパービジュアルマガジン スタートレック大研究11981


(つづきは2018年6月16日から)


2018/06/02

再録 スタートレックとは……

宇宙
それは人類に残された最後の開拓地である。
そこには人類の想像を絶する
新しい文明、新しい生命が待ちうけているに違いない。
これは人類初の試みとして
5年間の調査飛行に飛び立った
宇宙船USS・エンタープライズ号の
驚異に満ちた物語である。

『スタートレック』を製作したデジル・プロは、そのシリーズ製作にあたり、セールス用のプロモーション・シートを発行している。表にはその物語の見どころと、カークとリズ・ディナー、目が光っているゲリー・ミッチェル、スポックというシリーズ化のためのセカンド・パイロット・フィルム『Where No Man Has Come Before』の三枚の写真を配し、裏面は日本語を筆頭としたフランス語、ドイツ語、ラテン語ほか、七カ国語による表の英文の訳をかかげるというたいへんなプロモーション・シートであった----デジル・プロのよほどの自信をのぞかせる代物であるが、貴重な資料でもあり、原文のまま、その日本語の訳文を掲載してみることにしよう。

『遊星への旅行(スター・トレック)』


NBCテレビ
1966~1967放映予定
『遊星への旅行』は、デジル・スタジオ製作の一時間もの、色彩スペクタクル編で、人類の住む地球から、他の銀河系遊星への旅行によって、見る人を一足とびに未来の世界に案内する空想科学映画である。

 物語りは米国の宇宙観測船エンタープライズ号とその乗組員が、想像を絶する大宇宙への冒険に出発することによって始まる。エンタープライズ号の指命は、宇宙の監視、宇宙法の施行、宇宙生物の調査等に加えて、地球の宇宙植民地の確保にある。
『遊星への旅行』の各エピソードは、最初のシーンから見る人の空想力を完全に虜にする。観衆は地球以外の天体に存在する文化と宇宙人、不可思議な現象に魅入られてしまう。

 しかし、だからといって『遊星への旅行』が子供だましのちゃちなものだという事にはならない。物語りの中には人間対人間、人間対宇宙人の利益をめぐっての対立など立派なドラマとして私達の未来をえがき出して見せる。この科学空想映画をより現実的なものとするため、世界的に有名な米国の宇宙研究所であるランド・コーポレーションがこの映画の時代考証・監修をおこなっている。その結果、この映画は科学空想映画でありながら、空想という文字をあてはめるのが適当でないくらい、現実的な映画となっている。しっかりとした物語の構成に加えて、素晴らしい特殊技術の駆使がより一層の効果をあげている。
『遊星への旅行』についていえる事は、全てが大きいという事である。
 配役
主演:ウィリアム・シャトナー
   レオナード・ニモイ
共演:グレース・レ・ホイットニー
   デフォレスト・ケリー
   ジョージ・武井

製作・原案
   ジョージ・ロッデンベリー』



 やや直訳調で、アメリカで訳したため、科学空想映画や米国の宇宙観測船という呼び方、人名の間違いなど苦笑もするが、かなり的確に『スタートレック』(66~69)の魅力をセールスしているとは、言えないだろうか。

 『スタートレック』とは、人類がまさに宇宙を手にした時代の物語であり、宇宙の大海原に船出せんとする人類の叡智と冒険の物語なのだ。私達の世界にもまだ謎や未知の物がある通り、宇宙時代になっても、人類は謎や冒険に挑んでいるのだ。
『スタートレック』の魅力をあえてしぼれば、次のいくつかにしぼれると思う。

1.空前絶後の物語スケール


 宇宙歴数百年という目もくらむこの時代設定、数々のSFテレビがありといえども、これ程の空間スケールと未来感覚の物語は後にも先にも存在していない。19万トンの大型宇宙船に、400名以上の乗組員を乗せ、銀河系内外の宇宙調査に出発する……SF小説の世界ならば、『宇宙船ビーグル号の冒険』(作:A・E・ヴァン・ヴォークト)、SF映画ならば、『禁断の惑星』(56/監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス)などいくつかの例はあるが、SFテレビでは、およそ『スタートレック』のレベルで完成された物語となると、皆無と言えるのではないだろうか!? そして、おそらくこの『スタートレック』の対極の世界が、近未来に舞台をおいたジェリー・アンダーソンの『謎の円盤UFO』(69)や『スペース1999』(73)なのだろうと思う。
 光速を超えることなど朝メシ前という感覚が見事で、まさに宇宙航海時代であり、エンタープライズの何とも言い様のない不思議なデザインと共に、このワープというイメージが、強烈な印象を作品に残した……。

2.人間ドラマの充実


『スタートレック』の魅力を支えるものがそのキャラクターであることは、およそ異論を持たないと思う。
 責任感あふれ、沈着冷静にして熱血漢、きわめて人間的なカーク船長、感情を表に出さず、倫理的な思考を第一とするバルカン星人の副長ミスター・スポックとしばしば口論になる人間くさい皮肉屋のドクター・マッコイ(また、この三人そのものになった感のある三人の役者の好演は言うまでもない!)、この三人のセリフのやりとりがSFテレビには珍しい程、人間くさい構成をとっており、この三人を結びつける友情の絆が『スタートレック』の核となって、物語のテーマをしばしば支えきっていた……。

 明らかに“子供向け”と思えぬセリフの応酬がまた楽しく、大人の鑑賞を作品が要求する気配が作品の随所に現れていた。ちなみに、アーウィン・アレン製作の『原子力潜水艦シービュー号』(64~68)、『宇宙家族ロビンソン』(65~68)は、7時半~8時半の放映、『スタートレック』は、8時半~9時半の放映で、第三シーズンに至っては、10時~11時の深夜放映であった。

 『スタートレック』がいわゆる子供向け作品でないことがこの放映時間帯からもわかると思う。と同時に、その時間帯に応える作品として完成されねばならなかったのだろう。吟味されたセリフによるドラマの充実は、そのまま作品の質の向上へとつながっていった。子供をそれ程意識しなかったことが『スタートレック』を大きく成長させたのである。

3.奇想天外な物語----それを支える特撮


 宇宙を舞台にすれば、どんな物語も許される反面、物語を支えるしっかりとしたテーマと、バックボーンのストーリーがない場合、ただ奇をてらうような作品になりやすい。その点、『スタートレック』は、多数のSF作家の参加をえて、およそ宇宙SFのテレビでは、しっかりとした物語を持つ代表作として、希有のシリーズとなった。また、監督もベテランぞろいで、うわつきやすい宇宙SFを地についたトーンで作りあげており、その手腕は大いに評価されてよい----数多くの宇宙人との出会い、抗争、誤解、そして和解……それは宇宙SFにふさわしい価値観の多様さえを生みだしていた。そして、その全てを視覚面で支える特撮イメージ。『スタートレック』は、きわめてバランスのよい特撮SFテレビとなったのである……。

 思えば、一九六〇年代末、米英SFテレビは、ひとつの頂点に達しようとしていた。アメリカでは、冒険ドラマとして、SFテレビをひとつの完成点へと導いたアレン製作の『原子力潜水艦シービュー号』、『宇宙家族ロビンソン』、『タイムトンネル』(66~67)、SFと西部劇を合体させた異色スパイ西部劇、ブルース・ランズベリー・プロの『ワイルドウエスト』(65~69)、サスペンスSFの傑作として、クイン・マーチンプロの底力を見せる『インベーダー』(66~67)、そして、宇宙SFの決定版、ロッデンベリーの『スタートレック』、イギリス製のドラマでは、個人と社会のありうるべき姿を求め戦い続ける奇跡の傑作『プリズナーNo.6』(68)、スーパースパイ物の傑作『おしゃれ秘探偵』(61~69)……『スタートレック』は、その中で中心の王道とも言うべきSFテレビの正史をかざる作品であった。

『スタートレック』……さぁ、その宇宙へと入る時がやってきた。ともに行こう、この素晴らしき宇宙歴の世界へ!!


初出『スーパービジュアルマガジン スタートレック大研究11981(つづく)

2018/06/01

再録 メイキング・オブ・『海底大戦争 スティングレイ』

散見する『サンダーバード』の原石の輝き!


『スーパーカー』(61〜62/NTV)で、陸海空を自由に進める未来カーの冒険を描き、続く『宇宙船XL−5』(63/フジテレビ)で、宇宙の平和を守って戦う宇宙船“XL−5”の活躍を描いたAPフィルムズは、1963年春に新シリーズの企画に入った。SF人形劇のスーパーマリオネーション第3作で、初のカラー映像を駆使して、スーパー潜水艦・スティングレイの海洋特撮を描く『海底大戦争 スティングレイ』(64〜65/フジテレビ)がそれであった。

 この企画当時、ジェリー・アンダーソン率いるAPフィルムズには、大きな変革が起こっていた。作品の発注元であるTV局のATVと世界配給を担当するITCの総帥、ルー・グレイド社長が前2作のビジネス的成功を評価し(『スーパーカー』は、アメリカ全土の地方TV局107局に売れ、『宇宙船XL−5』は、イギリスTV作品ではじめてアメリカ3大ネットワークのNBCへのセールスに成功した)、12万ポンド=当時、約9600万円で、APフィルムズの買収を決定した。APフィルムズは、正式にATVの子会社となり、発注と製作はより安定して行われるようになった。ATVは、作品を充実するために、さらに7万ポンド=約6000万円を出資して、APフィルムズは、狭いイブスウィッチ・ロードの撮影所から、スロー工業団地の一角にある倉庫を改造した新スタジオへ移動することになった。

 新しいスタジオは、約12m×約14m、高さ4.5mの撮影ステージが3つあり、人形撮影用に2ステージ、特撮用に1ステージと、専用ステージ化して、人形班、特撮班の進行をスムーズにさせた。ほかに、12の編集ルーム、人形の制作工房、製作部、スタッフルームの建物、そして、近所のエジンバラ・アベニューのボブ・ベル美術監督が指揮する美術セクションと人員も増え、より充実した施設となった。このスタジオが以降8年間、『サンダーバード』(66/NHK)や『謎の円盤UFO』(70/NTV)を製作するAPフィルムズ、21世紀プロの製作拠点となる。
『海底大戦争 スティングレイ』は、『宇宙船XL−5』のころから、ジェリー・アンダーソンたちスタッフの念願だったカラー化をはじね、さまざまなパートで技術的進化にチャレンジした作品だった。人形と特撮にわけて、そのメイキングに触れてみよう。

 進化する人形たち


 前2作でコミック的なキャラクターだった人形は、この作品から実写の俳優をモデルにして、キャラクターの存在感、個性、表情を増す、手法に挑んだ。トロイ・テンペスト艦長は、『マーベリック』(61/NET)、『ロックフォード氏の事件メモ』(75/テレビ朝日)の洒脱なジェームズ・ガーナ-の眉や目、顎と笑みをモデルにし、サム・ショア司令官は、『ボナンザ』(60/日本テレビ)の厳格な父親役や『宇宙空母ギャラクチカ』(81/日本テレビ)のアダム指令役のローン・グリーンをモデルに、海底王国の王・タイタンは『ヘンリー五世』ほかのシェイクスピア劇や映画で有名なサー・ローレンス・オリビエの若き日を参考にし、アトランタ中尉は声を担当した映画「007」シリーズのMの秘書・マネペニー役の女優ロイス・マックスウェルをモデルにして、それぞれの顔が制作された。
 俳優の顔をそのまままねるのではなく、人形のアクセントとして、俳優の個性的な特徴を借りて、そのキャラクター性をあげる挑戦だったのだと思う。顔もノーマル・タイプ、アングリー(怒り)、サッド(悲しみ)、スマイル(笑顔)の4種類の表情を作り、芝居にあわせて首をつけかえていく、人形の演技化に挑んだのもこの作品からだ。また、人形の眼球を本物の義眼メーカーに発注して、瞳の中の光彩や目の色による個性化にも飛躍的な進歩を見せ、リアリティーをレベルアップしていた。

 頭部の原型は、プラスチック粘土のような成型しやすい“プラスティシン”で原型モデルを作り、シリコン・ゴムで型取りし、FRP(グラスファイバー・プラスチック)で型抜きをする。FRPのうえに油絵の具とゴムを混合した塗料“トライミット”を筆塗りして肌の質感を生み出していった。男性キャラの頭にはモヘア(人形用の羊の体毛)を植毛し、女性キャラは衣装にあわせて髪型を変えるため、人間の毛髪を使ったという。

 前2作では木製だった重いボディーも、この作品からノーマル、スリム(やせ型)、ファット(太め)、女性の4種のボディーを型取りして、FRPで制作されるようになった。そのため、人形の大量生産が可能になり、主人公たちレギュラー陣もすべて2体以上作られた。人形操作のクリスティン・グランビル班とメアリー・ターナー班の2組が、それぞれの人形で違うエピソードを同時に撮影できるようになった。
 人形造型のメンバーを紹介すると、クリスティン・グランビルがアトランタ、タイタン、X−20を手がけ、助手のメアリー・ターナーがトロイとマリーナ、若手のジョン・ブラウンがサム司令官とフォンズを担当。ベテランのジョン・ブランダールが全体のボディー制作を担当し、ゲスト・キャラは、それぞれが手分けして制作していたようだ。

 水中遊泳シーンは、デレク・メディングス特撮監督率いる特撮班が手がけ、人形パートではじめてハイ・スピード撮影が使われた。マリーナの髪や服を扇風機でなびかせ、ギクシャクした人形の動きに神秘的なムードさえ感じさせて、人形を操作していたクリスティンたちを感激させた。監督のアラン・パティロも「水中遊泳シーンは、ムード満点で人形の動きも愛らしく絵的なおもしろさがあり、監督としても撮っていて楽しかった」と、回想している。この人形劇への飽くなき挑戦が、すべて次回作『サンダーバード』で結実を見せるのである。

 特撮は新しい領域へ!


『海底大戦争 スティングレイ』の特撮スタッフは、デレク・メディングス特撮監督のもと、助監督のブライアン・ジョンコック(ジョンソン)とリチャード・コンウェイ、カメラマンのジミー・エリオット、マイケル・ウィルソンという一班体制だった。主役メカのスティングレイの発進シーン、航行シーンやマリンビル基地がスクランブルによって地下へ降下していくバンク・カットを撮影した後、各話を少数メンバーで撮影していた。その中で次々に開発された撮影テクニックについて書いてみよう。

 まず、海洋特撮シーンについて。海上シーンを撮影するステージ内の特撮プールの設計は、技術プロデューサーのレッジ・ヒルが担当した。4.5m×4.5m、深さ60cmの正方形のプールで、横にふたつ並べて、4.5m×9mの特撮プールとなる。背景にはパースをつけて描いた空のホリゾントを吊り、水面の高さから撮影するわけだが、メディングス特撮監督は、波を自然に見せるため、プールの端から下へと水を流し続け、落ちた水がサーキュレイト・ポンプで、プールの中に環流する工夫をつけ加えた。このプールは、『謎の円盤UFO』まで活用され続けたが、映像を何度見ても信じられないような広がりが感じられる。
 水中シーンは、水族館用の厚い耐圧ガラスに挟んだ水槽越しに撮影され、撮影モデルはワイヤーで吊り、操演で動かしていた。マットアート出身のメディングスとボブ・ベル美術監督の手腕は、海底のセットをパース・セット化し、スティングレイの射出口からの発進シーンでは、水槽のガラスの手前に岩盤やトンネル口をマットアートで足し、水槽の中に出すエアーとトンネルのミニチュア、スティングレイの位置をあわせ、マルチ撮影のようにしてスリリングな映像を完成させていった。

 6枚の翼を持つ主役メカのスティングレイ(あのウィングのラダーが水中での高機動力、運動性を生むのである)は、デレク・メディングスのデザインでマスター・モデル社出身の天才モデラー、レイ・ブラウンが3フィート=約91.4cmの大型モデルと、ロング撮影用のミニサイズを制作。多用された18.5インチ=約47cmの中型モデルは、のちに、サンダーバード2号やスーパーロールスロイスFAB−1の造型を手がけるマスター・モデル社のアーサー・“ワグ”エバンスが造型した。海底人の魚型潜水艦メカニカル・フィッシュは、メディングス自身が紙と木片をつなげて、船体がしなりながら進む動きを確認してデザインを完成。オープニングのスティングレイとともに、海上に飛び出すワイヤー・ワークは、一発で撮影OKとなった、メディングスお気に入りのカットだ。

 同じくメディングスがデザインしたマリンビル基地は、『宇宙船XL−5』で、はじめて社内造型モデラーとなったエリック・バックマンが紙と木片、鉄道模型やプラモの流用パーツで造型。地下へ降下する特撮シーンは、メディングスとブライアン・ジョンソンの指揮下、水圧装置で駆動させ、ジミー・エリオットが撮影して完成させた。基地全体が移動する科学要塞のイメージが圧巻で、トロイ艦長たちがイスに座ったまま、地下の格納ドックへと緊急出動してスティングレイの操縦席にドッキングする(カチャッと固定装置が出るのが本当にスゴイ!)連続カットの映像設計が見事。この出撃スクランブル・シーンにかかるバリー・グレイの音楽は、まさに、『サンダーバード』の序曲で、日本特撮やロボット・アニメのいわゆる----“ワンダバ”出撃シーン----は、ここから開幕したとも言えるだろう。

 水中の航行シーン、WASPの飛行メカの操演シーンのレベルアップを受けて、メディングスは、『スティングレイ』のシリーズ後半で、新しい特撮装置の購入に踏み切る。本格的な飛行メカニックの撮影のため、彼が特撮を学んだ師匠のレス・ボウイに相談して、「ぜひ、手に入れたほうがいい」と、後押しされていたもの。それは、造型のエリック・バックマンの友人、エズラ・ダーリングが紹介してくれた、ローリング・スカイを生み出す背景ロール装置だった。ベルト状のローリング背景が自在に回転し、飛行エフェクトを生むシステムだ。メディングスは、これを第29話「ウラナリ大王の挑戦」(日本放送第38話)の複葉機の空中シーンにテスト使用。この装置は、次回作『サンダーバード』で、大空を飛ぶサンダーバード1号、2号、ファイヤーフラッシュと、子供たちを圧倒する飛行イメージを生むことになる。

 こうして、完全な形でDVD化された『海底大戦争 スティングレイ』からは、『サンダーバード』につながるさまざまな可能性が見えてきて、改めて、驚かされるだろう。デニス・スプーナー、アラン・フェネルの明るく陽気な脚本とセリフは、ある意味、『サンダーバード』以上に、ユーモラスで、ペネロープとパーカーのやりとりが好きな方は、この作品がルーツだと必ず確信してくれると思う。日本語版のキャストも、トロイ艦長にのちに、『サンダーバード』で、バージルの声を担当する宗近晴見。フォンズには、ロカビリー歌手で、俳優としても軽妙な演技を見せていたミッキー・カーティス、サム司令官にアニメ『8マン』で警視庁の田中課長を演じた俳優の天草四郎、タイタン魔王で絶品の悪役演技を見せる熊倉一雄と、芸達者ばかりで、今見ても、役者陣のノリが実に楽しい。
 また、日本語版の第10話からは、当時、『アベック歌合戦』(62/YTV)の司会で、絶大な人気を誇っていたボードビリアンのトニー谷が、得意の珍妙なセリフまわしで、ナレーションを担当。これは、同じフジテレビ系放送の『宇宙船XL−5』が、クレイジーキャッツの谷啓のナレーションを加えて、『谷啓の宇宙大冒険』と改題された(第12話より)流れを受けたものと思われるが、フジテレビのマンガ、子供番組担当の新藤善之プロデューサーの仕事で、のちに『忍者部隊月光』(64)、『戦え!マイティジャック』(68)、『恐怖劇場アンバランス』(73)を担当する新藤プロデューサーの初期の仕事だった。オリジナル原語版もユーモア設計が本当に楽しいシリーズなのだ。日英双方のノリのよさを満喫してほしい!
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