2018/06/17

再録 『スタートレック』はこうして生まれた 第2回

 前回、やや説明を急ぎすぎたため、セカンド・パイロットの前後が混乱して、誤ったことを書いてしまった。その訂正をしてから、第2回のメイキングに入ることにしよう。
 ファースト・パイロット「The Cage」は、NBCのお気に召さず、セカンド・パイロットが作られることになったことは、前回、触れた。そのために、NBCへロッデンベリーが提出した脚本の数は、実は3本だったのである。

 それは、米中の対立を意識させる「The Omega Groly」、悪漢ハリー・マッドが登場する「Mudd’s Women」、超能力物の「Where No Man Has Gone Before」のそれぞれであった。
 NBCは、その中で正攻法のSF物であり、要求していた合成シーンがふんだんにある、題材としても魅力的な超能力者物「Where No Man Has Gone Before」をセカンド・パイロットに決定した(ほかの2本ものちに、それぞれ第52話『細菌戦争の果て』、第6話『恐怖のビーナス』として、実際に制作された)。

 脚本が提出されたのが昭和40(1965)年6月初旬、そして、セカンド・パイロットは、7月19日から撮影に入っていった(ちなみに、脚本は第1稿が5月27日、第2稿が6月28日、改訂決定稿が7月8日と、4段階を経ている)。

 船長や乗組員のキャラクターは、スポックを除いて一掃され、船内の装備、制服、スポックのメイクなども、ファースト・パイロット版とは、微妙な相違をみせている。スポックのメイクに関しては、「The Cage」を担当したデジル・スタジオのフレッド・フィリップスに代わって、『オズの魔法使い』(39/監督:ヴィクター・フレミング)を担当した名人ジャック・ダンの息子・ロバート・ダンが担当していた(のちに、ロバート・ダンは、『スパイ大作戦』(67/フジテレビ)で、マーティン・ランドーの驚くべきメイクの数々を生み出していく)。ダンは、またゲーリー・ミッチェルが超能力を次第に得るたびに、その鬢の髪をグレイにしていく、という入念さをみせていった。全編の光線やエネルギー、発光する眼など、アニメーションや合成の入念な作業であり、ファースト・パイロットから使用されはじめたマット・ペインティングの惑星建造物は、『スタートレック』の宇宙スケールを確立させる感があった。

 昭和40(1965)年10月、デジルプロのほかの2本のパイロット・フィルム「Police Story」(デフォレスト・ケリーが警察医を、グレース・リー・ホイットニーが女刑事の役を演じた警察物)、「The Hunt of April Sa-vage」(家族を殺された主人公の復讐を描く異色西部劇)を片づけたジーン・ロッデンベリーは、この『スタートレック』のセカンド・パイロットを終了させるのに、ようやく自由な身体となった。

 ジーン・ロッデンベリーは、このセカンド・パイロットに全力を尽くした。もし、この作品でNBCのOKが取れなければ、『スタートレック』の世界は、陽の目をみず、永遠に死んでしまうからだ。音楽、音響効果、オプチカル処理が何度も変更され、10月、11月、12月と月日は矢のように過ぎ、スタジオ首脳陣の圧力が次第に強くなっていった……。その中でも耐えきり、作品の完成度を目指した作家ジーン・ロッデンベリーの苦労は、決して無駄ではなかった。昭和41(1966)年1月、ニューヨークのNBC首脳陣に提出されたセカンド・パイロットは、2月中旬には、シリーズ化OKの答えを、ロッデンベリーにもたらしたのだ。

 エンタープライズの乗員は、この段階で、さらに整理が加えられ、秘書のスミス、ドクター・パイパー、コミュニケーション主任・アルデンが消えて、物理学者・スルーは、ヘルムスマンに設定を変えた。シリーズ化にともない、ウィリアム・シャトナー、ジョージ・タケイ、ジェイムス・ドーハンが契約にサインをした。そして、「Police story」の警察医・デフォレスト・ケリー、女刑事グレース・リー・ホイットニーをドクター・マッコイ、秘書のランドとして迎えて、アルデンの代わりに同じ黒人のニシェル・ニコルスをウラ中尉に、一度は去ったメージェル・パレットを看護婦・クリスチン・チャベルとしてレギュラー化し、ここに『スタートレック』のレギュラーは、態勢を整えるのである。
 シリーズ化の第1作は、第10話として放映された「謎の球体」(原題「The Cordo-mite Manueuver」)で、昭和41(1966)年5月末からその撮影ははじまった。

 しかし、ジーン・ロッデンベリーの苦労は、それからが本番であった。バランタイン・ブック「The Making of STAR TREK」によると、その放映開始時、『スタートレック』は、16本分の契約しか取りつけていなかった。視聴率が悪ければ、続行されず、そのまま終わってしまうネットワークのやり方だったのである。

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 ジーン・ロッデンベリーを支えるプロデューサーであり、脚本も多数執筆したジーン・L・クーンは、前記の「The Making----」の中で、ジーン・ロッデンベリーは、全く新しい宇宙世界を創造した、と絶賛を贈っている。事実、その詳細な設定、各スタッフに送った内容設定の指示の数々は、驚くべきもので、これほど緻密な設定を持つSFTVは、おそらくこれからののちも出現しないと思う。ぜひ、バランタイン・ブックスに収められたロッデンベリーのスタッフたちに送った手紙を読んでいただきたい。ひとりの企画者・プロデューサーが自作のイメージをここまで持ち、ふくらましえるものかと、あなたも驚かれると思う。何度もいうように、ジーン・ロッデンベリーこそ『スタートレック』のすべてを握る人物だったのである。

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 さて、前回のお約束通り、今回は、特撮についても少し触れてみたい。触れるのは、ミニチュア、メーキャップ、合成、マット絵の各パートについてである。

『スタートレック』のファースト・パイロットである「The Cage」の特撮を担当したのは、ハワード・A・アンダーソンの会社であった。物語のもっとも重要な要素であるUSSエンタープライズのデザインについては、ジーン・ロッデンベリーは、ある腹案(イメージ)を持っていた。ロケットでも、ジェットでもなく、ある新しい動力を使い、宇宙空間を疾駆する宇宙船……美術監督・パット・ガッツマン、そして、美術助監督とシリーズの総合デザイナーとなるマット・ジェフリーズは、ロッデンベリーの依頼を受け、そのデザインに入った。ジェフリーズは、ノースアメリカン社、ダグラス社、NASAなどを訪ね、科学者や技術者と相談し、その動力、デザインを模索した。ランド・コーポレーションのハーベイ・リンの力も借り、ようやくジェフリーズの案は固まる。そして、描かれた何点かのラフ・スケッチの中にやがてジェフリーズが気に入るものが現れた……円盤形の船体、タバコ状の小さな第二船体、二本のエンジン・ポッド----その段階で、エンタープライズの特異なデザインは誕生を見た、と言ってよい。

 早速、ジェフリーズは、木製でそのモデルを制作してみた----そして、ロッデンベリーの意見や細部の直しを経て、エンタープライズのデザインは完成する。

 「The Cage」に使用するため、ハワード・A・アンダーソン・カンパニーは、最終デザインを得てミニチュアの制作に入った。ダレン・アンダーソンの指揮の下、20人の技術者がそのスタッフとなった。当然、そのスタッフは、ロッデンベリーやジェフリーズに会い、デザインの未整理な部分を修正していったに違いない……。

 アンダーソン・カンパニーは、3体のミニチュアを作りあげた。まず、4インチ(約12センチ)の遠景用木製モデル、よりディテールが細かい3フィート(約90センチ)の木製モデル、そして、最大の12フィート(約3.6メートル)のミニチュアである。すでに、昭和39(1964)年9月には、このミニチュアは完成していた。

 この最大のミニチュアは、撮影終了後、アメリカのスミソニアン航空博物館に展示され、今でも見ることは可能である。ワイヤーで吊られたエンタープライズ。だが、撮影中のエンタープライズは、ワイヤーで吊る方式ではなく、ポールで固定し、ブルースクリーンの部分に、後で宇宙を合成するわけで、『スタートレック』の宇宙空間の奥行きは、その撮影方式の成果であった。

 この最大のミニチュアは、ほかのモデルと相違点があった。エンジン・ナセルの前方のカップにアンテナが突き出し、そのナセルの後部が発光する球体となっていたのである(エンタープライズの形が時々変わるのは、そのためなのである)。そのマター・アンチマタ−エンジンの前部の光が回転し、各所のライトが点滅した。

『スタートレック』の宇宙船モデルは、すべて合成方式を用いて、カメラを動かす手法で撮影された。この手法は、やがて、コンピュータを導入したダイクストラ・フレックスとなり、技術的に完成をみるが、『スタートレック』の宇宙シーンは、60年代SFTVのひとつの頂点となっていく。

 また、宇宙シーンには欠かせない各惑星は、ウェストハイマー・カンパニーの手で作られた。黒白に塗られた惑星のモデルを作り、フィルターを変えて色をつけ、オプチカル・プリンターで合成するだけで、ほとんどの惑星はひとつのミニチュアで撮影された。その惑星のサイズは、約2フィート(60センチ)の大きさであった。

『スタートレック』の惑星世界は、多く、“オプチカル・ペインティング”というガラスに描いた絵とセットを合成する手法で行われた。ファースト・パイロット版で、幻想の世界を描く際に使われたのを皮切りに、第3話「光るめだま」のデルタ・ベガ星、第20話「宇宙軍法会議」の第11宇宙基地、第23話「コンピュ−ター戦争」のエネミア7、第25話「地底怪獣ホルタ」のジュナス6と多数の作品で使用されていった。画面のはじにセットを合成しているところがミソで、時々、まるで絵に見えてしまう時もあるのだが、『スタートレック』の独特のムードを確立したといえそうだ(この手の特撮の流用はよくあることで、『光るめだま』に登場したデルタ・ベガ星は、少し修正して、第9話『悪魔島から来た狂人』のフィモ植民星に使われていた----前号参照)。

 転送シーンも、ハワード・アンダーソン・カンパニーの手で作られた。ロッデンベリーは、毎回、登場するこの光学処理のシーンを見せ場として望み、スタッフはその要求に見事応えた。十近い行程を経る撮影と合成は、この転送というイメージを、まさに目で見るSFとして確立させていた(ロッデンベリーの転送シーンのメモは、“ピーターパン”の光のきらめきと書いてあるという。転送の原形イメージが妖精の光というのは、とても興味深い)。

 ファースト・パイロット版に登場するハンド・レーザー、コミュニケーターを作ったのは、ハリウッドの有名な特殊効果のアーティスト、ワー・チャンである。チャンは、ジム・ダンフォースやジーン・ワレン、ティム・バーたちと“プロジェクト・アンリミテッド”という組織体を作り、『タイム・マシン 80万年後の世界へ』(60/監督:ジョージ・パル)、『すばらしき世界』、『ラオ博士の七つの顔』(64/監督:ジョージ・パル)の特殊メーキャップと効果を担当した人物である。SFTV『アウター・リミッツ』(63)では、このメンバーがストップ・モーション特撮、怪物や特殊効果のスタッフとして腕を振るっていた。この組織が解散した後、ジーン・ワレンと、“エクセルシィア・カンパニー”を設立、チャンは、『スタートレック』の仕事に参加していく。

 チャンは、さまざまな物をデザインし、小道具を作りあげていった。シリーズ用のフェイザー銃、コミュニケーター、トライコーダー。「謎の球体」のベイロック人形、「惑星M113の吸血獣」のソルト・モンスター、スポックのバルカン・ハープ、ロミュランのヘルメットとバード・オブ・プレイ、「ゴリラの惑星」の原始人、「怪獣ゴーンとの決闘」のゴーン、「新種クアドロトリティケール」のトリブル……と、『スタートレック』を造型の面から支え続けた。

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『スタートレック』を見ていて、驚くのは、その合成シーンの多さである。宇宙シーンは、すべて合成であるし、フェイザー、転送シーン、変身シーンなど、『スタートレック』はついには、コスト高で製作が中止になるわけだが、思わず納得する感じがあった。

 アーウィン・アレンの諸作『原子力潜水艦シービュー号』(64/NTV・東京12チャンネル)、『宇宙家族ロビンソン』(66/TBS)、『タイムトンネル』(67/NHK)、『巨人の惑星』(69/東京12チャンネル)は、そのあたりをうまく逃げていることがわかると思う。シービュー号もフライング・サブも合成しているわけではないし、ロビンソンはたまにしか宇宙へ出ないし、巨大怪獣すらモノクロの時のみの登場である。『タイムトンネル』も流用とストックフィルムでコストをおさえている----L・B・アボット指揮する20世紀フォックスの特撮シーンは、見事の一語なのだが、この低コスト化がうまくいっているあたりが、職人・アーウィン・アレンのうまさなのかもしれない。

『宇宙家族ロビンソン』と企画すら、ほとんど同時にはじまった『スタートレック』だが、ロッデンベリー自身あの作品だけには、と負けん気を燃やしたことだろう。
 当初こそ、宇宙飛行シーンや巨大怪獣があるものの、漂流してしまった後の展開では、やはり、『スタートレック』のスケール感覚には一歩譲る気配があった(もっとも片方は、子供を主体とした家族向け、片方はハイ・ティーンを目的とした大人向けという両作では、比べる方が間違いなのかもしれないが……)。

 特撮のゲストでは、第14話「宇宙基地SOS」のパード・オブ・プレイとの宇宙戦のイメージ、第35話「宇宙の巨大怪獣」のドームズデイ・マシンの盛りあがるラスト(破壊されたコンステレーションは、AMT社のエンタープライズのプラモデルを改造したものだ)、第47話「単細胞生物との激突」で、珍しくもアニメーションで表現された単細胞生物、第62話「宇宙の怪! 怒りを喰う」と第68話「トロイアスの王女エラン」に登場するクリンゴン宇宙船との死闘、第64話「異次元空間に入ったカーク船長の危機」で、エネルギーのクモの巣を張りめぐらすソリアン宇宙船……といったところが主な印象に残る特撮だろうか。

『スタートレック』がなぜ、第3シーズンで終了したのか、それについてアメリカのTV状況とあわせて、次回に考えてみたい。遅ればせながら、総論も掲載する予定である。

初出『スーパービジュアルマガジン スタートレック大研究2』1981

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