2018/06/02

再録 スタートレックとは……

宇宙
それは人類に残された最後の開拓地である。
そこには人類の想像を絶する
新しい文明、新しい生命が待ちうけているに違いない。
これは人類初の試みとして
5年間の調査飛行に飛び立った
宇宙船USS・エンタープライズ号の
驚異に満ちた物語である。

『スタートレック』を製作したデジル・プロは、そのシリーズ製作にあたり、セールス用のプロモーション・シートを発行している。表にはその物語の見どころと、カークとリズ・ディナー、目が光っているゲリー・ミッチェル、スポックというシリーズ化のためのセカンド・パイロット・フィルム『Where No Man Has Come Before』の三枚の写真を配し、裏面は日本語を筆頭としたフランス語、ドイツ語、ラテン語ほか、七カ国語による表の英文の訳をかかげるというたいへんなプロモーション・シートであった----デジル・プロのよほどの自信をのぞかせる代物であるが、貴重な資料でもあり、原文のまま、その日本語の訳文を掲載してみることにしよう。

『遊星への旅行(スター・トレック)』


NBCテレビ
1966~1967放映予定
『遊星への旅行』は、デジル・スタジオ製作の一時間もの、色彩スペクタクル編で、人類の住む地球から、他の銀河系遊星への旅行によって、見る人を一足とびに未来の世界に案内する空想科学映画である。

 物語りは米国の宇宙観測船エンタープライズ号とその乗組員が、想像を絶する大宇宙への冒険に出発することによって始まる。エンタープライズ号の指命は、宇宙の監視、宇宙法の施行、宇宙生物の調査等に加えて、地球の宇宙植民地の確保にある。
『遊星への旅行』の各エピソードは、最初のシーンから見る人の空想力を完全に虜にする。観衆は地球以外の天体に存在する文化と宇宙人、不可思議な現象に魅入られてしまう。

 しかし、だからといって『遊星への旅行』が子供だましのちゃちなものだという事にはならない。物語りの中には人間対人間、人間対宇宙人の利益をめぐっての対立など立派なドラマとして私達の未来をえがき出して見せる。この科学空想映画をより現実的なものとするため、世界的に有名な米国の宇宙研究所であるランド・コーポレーションがこの映画の時代考証・監修をおこなっている。その結果、この映画は科学空想映画でありながら、空想という文字をあてはめるのが適当でないくらい、現実的な映画となっている。しっかりとした物語の構成に加えて、素晴らしい特殊技術の駆使がより一層の効果をあげている。
『遊星への旅行』についていえる事は、全てが大きいという事である。
 配役
主演:ウィリアム・シャトナー
   レオナード・ニモイ
共演:グレース・レ・ホイットニー
   デフォレスト・ケリー
   ジョージ・武井

製作・原案
   ジョージ・ロッデンベリー』



 やや直訳調で、アメリカで訳したため、科学空想映画や米国の宇宙観測船という呼び方、人名の間違いなど苦笑もするが、かなり的確に『スタートレック』(66~69)の魅力をセールスしているとは、言えないだろうか。

 『スタートレック』とは、人類がまさに宇宙を手にした時代の物語であり、宇宙の大海原に船出せんとする人類の叡智と冒険の物語なのだ。私達の世界にもまだ謎や未知の物がある通り、宇宙時代になっても、人類は謎や冒険に挑んでいるのだ。
『スタートレック』の魅力をあえてしぼれば、次のいくつかにしぼれると思う。

1.空前絶後の物語スケール


 宇宙歴数百年という目もくらむこの時代設定、数々のSFテレビがありといえども、これ程の空間スケールと未来感覚の物語は後にも先にも存在していない。19万トンの大型宇宙船に、400名以上の乗組員を乗せ、銀河系内外の宇宙調査に出発する……SF小説の世界ならば、『宇宙船ビーグル号の冒険』(作:A・E・ヴァン・ヴォークト)、SF映画ならば、『禁断の惑星』(56/監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス)などいくつかの例はあるが、SFテレビでは、およそ『スタートレック』のレベルで完成された物語となると、皆無と言えるのではないだろうか!? そして、おそらくこの『スタートレック』の対極の世界が、近未来に舞台をおいたジェリー・アンダーソンの『謎の円盤UFO』(69)や『スペース1999』(73)なのだろうと思う。
 光速を超えることなど朝メシ前という感覚が見事で、まさに宇宙航海時代であり、エンタープライズの何とも言い様のない不思議なデザインと共に、このワープというイメージが、強烈な印象を作品に残した……。

2.人間ドラマの充実


『スタートレック』の魅力を支えるものがそのキャラクターであることは、およそ異論を持たないと思う。
 責任感あふれ、沈着冷静にして熱血漢、きわめて人間的なカーク船長、感情を表に出さず、倫理的な思考を第一とするバルカン星人の副長ミスター・スポックとしばしば口論になる人間くさい皮肉屋のドクター・マッコイ(また、この三人そのものになった感のある三人の役者の好演は言うまでもない!)、この三人のセリフのやりとりがSFテレビには珍しい程、人間くさい構成をとっており、この三人を結びつける友情の絆が『スタートレック』の核となって、物語のテーマをしばしば支えきっていた……。

 明らかに“子供向け”と思えぬセリフの応酬がまた楽しく、大人の鑑賞を作品が要求する気配が作品の随所に現れていた。ちなみに、アーウィン・アレン製作の『原子力潜水艦シービュー号』(64~68)、『宇宙家族ロビンソン』(65~68)は、7時半~8時半の放映、『スタートレック』は、8時半~9時半の放映で、第三シーズンに至っては、10時~11時の深夜放映であった。

 『スタートレック』がいわゆる子供向け作品でないことがこの放映時間帯からもわかると思う。と同時に、その時間帯に応える作品として完成されねばならなかったのだろう。吟味されたセリフによるドラマの充実は、そのまま作品の質の向上へとつながっていった。子供をそれ程意識しなかったことが『スタートレック』を大きく成長させたのである。

3.奇想天外な物語----それを支える特撮


 宇宙を舞台にすれば、どんな物語も許される反面、物語を支えるしっかりとしたテーマと、バックボーンのストーリーがない場合、ただ奇をてらうような作品になりやすい。その点、『スタートレック』は、多数のSF作家の参加をえて、およそ宇宙SFのテレビでは、しっかりとした物語を持つ代表作として、希有のシリーズとなった。また、監督もベテランぞろいで、うわつきやすい宇宙SFを地についたトーンで作りあげており、その手腕は大いに評価されてよい----数多くの宇宙人との出会い、抗争、誤解、そして和解……それは宇宙SFにふさわしい価値観の多様さえを生みだしていた。そして、その全てを視覚面で支える特撮イメージ。『スタートレック』は、きわめてバランスのよい特撮SFテレビとなったのである……。

 思えば、一九六〇年代末、米英SFテレビは、ひとつの頂点に達しようとしていた。アメリカでは、冒険ドラマとして、SFテレビをひとつの完成点へと導いたアレン製作の『原子力潜水艦シービュー号』、『宇宙家族ロビンソン』、『タイムトンネル』(66~67)、SFと西部劇を合体させた異色スパイ西部劇、ブルース・ランズベリー・プロの『ワイルドウエスト』(65~69)、サスペンスSFの傑作として、クイン・マーチンプロの底力を見せる『インベーダー』(66~67)、そして、宇宙SFの決定版、ロッデンベリーの『スタートレック』、イギリス製のドラマでは、個人と社会のありうるべき姿を求め戦い続ける奇跡の傑作『プリズナーNo.6』(68)、スーパースパイ物の傑作『おしゃれ秘探偵』(61~69)……『スタートレック』は、その中で中心の王道とも言うべきSFテレビの正史をかざる作品であった。

『スタートレック』……さぁ、その宇宙へと入る時がやってきた。ともに行こう、この素晴らしき宇宙歴の世界へ!!


初出『スーパービジュアルマガジン スタートレック大研究11981(つづく)

1 件のコメント:

  1. <池田憲章Facebook転載≫
    私がスタートレックのファンではないと、フェイスブックで書いたら、親しい友だちからしっとったよとメールをいくつももらいました。バレてたかぁ。徳間書店のスーパービジュアルマガジンでアメリカTVの中でどういう位置にあるのか、SFファンが考えているスタートレックの評価はどう思っているのか、ともかく全能力を上げて、書いてみた。スタートレックのファンに聞いたら、カラー写真以外見てないので、読んでいませんと言われて、笑ってしまいました。まあ、そんなもんですね〜。池田憲章の外国TVメモランダムに再録しておいたので、スタートレックの放送された時代の中でどう見られていたのか、スタートレックファンがあまり書かない視点を書いておいたので、読んでみてください。(^。^)

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