2018/06/01

再録 メイキング・オブ・『海底大戦争 スティングレイ』

散見する『サンダーバード』の原石の輝き!


『スーパーカー』(61〜62/NTV)で、陸海空を自由に進める未来カーの冒険を描き、続く『宇宙船XL−5』(63/フジテレビ)で、宇宙の平和を守って戦う宇宙船“XL−5”の活躍を描いたAPフィルムズは、1963年春に新シリーズの企画に入った。SF人形劇のスーパーマリオネーション第3作で、初のカラー映像を駆使して、スーパー潜水艦・スティングレイの海洋特撮を描く『海底大戦争 スティングレイ』(64〜65/フジテレビ)がそれであった。

 この企画当時、ジェリー・アンダーソン率いるAPフィルムズには、大きな変革が起こっていた。作品の発注元であるTV局のATVと世界配給を担当するITCの総帥、ルー・グレイド社長が前2作のビジネス的成功を評価し(『スーパーカー』は、アメリカ全土の地方TV局107局に売れ、『宇宙船XL−5』は、イギリスTV作品ではじめてアメリカ3大ネットワークのNBCへのセールスに成功した)、12万ポンド=当時、約9600万円で、APフィルムズの買収を決定した。APフィルムズは、正式にATVの子会社となり、発注と製作はより安定して行われるようになった。ATVは、作品を充実するために、さらに7万ポンド=約6000万円を出資して、APフィルムズは、狭いイブスウィッチ・ロードの撮影所から、スロー工業団地の一角にある倉庫を改造した新スタジオへ移動することになった。

 新しいスタジオは、約12m×約14m、高さ4.5mの撮影ステージが3つあり、人形撮影用に2ステージ、特撮用に1ステージと、専用ステージ化して、人形班、特撮班の進行をスムーズにさせた。ほかに、12の編集ルーム、人形の制作工房、製作部、スタッフルームの建物、そして、近所のエジンバラ・アベニューのボブ・ベル美術監督が指揮する美術セクションと人員も増え、より充実した施設となった。このスタジオが以降8年間、『サンダーバード』(66/NHK)や『謎の円盤UFO』(70/NTV)を製作するAPフィルムズ、21世紀プロの製作拠点となる。
『海底大戦争 スティングレイ』は、『宇宙船XL−5』のころから、ジェリー・アンダーソンたちスタッフの念願だったカラー化をはじね、さまざまなパートで技術的進化にチャレンジした作品だった。人形と特撮にわけて、そのメイキングに触れてみよう。

 進化する人形たち


 前2作でコミック的なキャラクターだった人形は、この作品から実写の俳優をモデルにして、キャラクターの存在感、個性、表情を増す、手法に挑んだ。トロイ・テンペスト艦長は、『マーベリック』(61/NET)、『ロックフォード氏の事件メモ』(75/テレビ朝日)の洒脱なジェームズ・ガーナ-の眉や目、顎と笑みをモデルにし、サム・ショア司令官は、『ボナンザ』(60/日本テレビ)の厳格な父親役や『宇宙空母ギャラクチカ』(81/日本テレビ)のアダム指令役のローン・グリーンをモデルに、海底王国の王・タイタンは『ヘンリー五世』ほかのシェイクスピア劇や映画で有名なサー・ローレンス・オリビエの若き日を参考にし、アトランタ中尉は声を担当した映画「007」シリーズのMの秘書・マネペニー役の女優ロイス・マックスウェルをモデルにして、それぞれの顔が制作された。
 俳優の顔をそのまままねるのではなく、人形のアクセントとして、俳優の個性的な特徴を借りて、そのキャラクター性をあげる挑戦だったのだと思う。顔もノーマル・タイプ、アングリー(怒り)、サッド(悲しみ)、スマイル(笑顔)の4種類の表情を作り、芝居にあわせて首をつけかえていく、人形の演技化に挑んだのもこの作品からだ。また、人形の眼球を本物の義眼メーカーに発注して、瞳の中の光彩や目の色による個性化にも飛躍的な進歩を見せ、リアリティーをレベルアップしていた。

 頭部の原型は、プラスチック粘土のような成型しやすい“プラスティシン”で原型モデルを作り、シリコン・ゴムで型取りし、FRP(グラスファイバー・プラスチック)で型抜きをする。FRPのうえに油絵の具とゴムを混合した塗料“トライミット”を筆塗りして肌の質感を生み出していった。男性キャラの頭にはモヘア(人形用の羊の体毛)を植毛し、女性キャラは衣装にあわせて髪型を変えるため、人間の毛髪を使ったという。

 前2作では木製だった重いボディーも、この作品からノーマル、スリム(やせ型)、ファット(太め)、女性の4種のボディーを型取りして、FRPで制作されるようになった。そのため、人形の大量生産が可能になり、主人公たちレギュラー陣もすべて2体以上作られた。人形操作のクリスティン・グランビル班とメアリー・ターナー班の2組が、それぞれの人形で違うエピソードを同時に撮影できるようになった。
 人形造型のメンバーを紹介すると、クリスティン・グランビルがアトランタ、タイタン、X−20を手がけ、助手のメアリー・ターナーがトロイとマリーナ、若手のジョン・ブラウンがサム司令官とフォンズを担当。ベテランのジョン・ブランダールが全体のボディー制作を担当し、ゲスト・キャラは、それぞれが手分けして制作していたようだ。

 水中遊泳シーンは、デレク・メディングス特撮監督率いる特撮班が手がけ、人形パートではじめてハイ・スピード撮影が使われた。マリーナの髪や服を扇風機でなびかせ、ギクシャクした人形の動きに神秘的なムードさえ感じさせて、人形を操作していたクリスティンたちを感激させた。監督のアラン・パティロも「水中遊泳シーンは、ムード満点で人形の動きも愛らしく絵的なおもしろさがあり、監督としても撮っていて楽しかった」と、回想している。この人形劇への飽くなき挑戦が、すべて次回作『サンダーバード』で結実を見せるのである。

 特撮は新しい領域へ!


『海底大戦争 スティングレイ』の特撮スタッフは、デレク・メディングス特撮監督のもと、助監督のブライアン・ジョンコック(ジョンソン)とリチャード・コンウェイ、カメラマンのジミー・エリオット、マイケル・ウィルソンという一班体制だった。主役メカのスティングレイの発進シーン、航行シーンやマリンビル基地がスクランブルによって地下へ降下していくバンク・カットを撮影した後、各話を少数メンバーで撮影していた。その中で次々に開発された撮影テクニックについて書いてみよう。

 まず、海洋特撮シーンについて。海上シーンを撮影するステージ内の特撮プールの設計は、技術プロデューサーのレッジ・ヒルが担当した。4.5m×4.5m、深さ60cmの正方形のプールで、横にふたつ並べて、4.5m×9mの特撮プールとなる。背景にはパースをつけて描いた空のホリゾントを吊り、水面の高さから撮影するわけだが、メディングス特撮監督は、波を自然に見せるため、プールの端から下へと水を流し続け、落ちた水がサーキュレイト・ポンプで、プールの中に環流する工夫をつけ加えた。このプールは、『謎の円盤UFO』まで活用され続けたが、映像を何度見ても信じられないような広がりが感じられる。
 水中シーンは、水族館用の厚い耐圧ガラスに挟んだ水槽越しに撮影され、撮影モデルはワイヤーで吊り、操演で動かしていた。マットアート出身のメディングスとボブ・ベル美術監督の手腕は、海底のセットをパース・セット化し、スティングレイの射出口からの発進シーンでは、水槽のガラスの手前に岩盤やトンネル口をマットアートで足し、水槽の中に出すエアーとトンネルのミニチュア、スティングレイの位置をあわせ、マルチ撮影のようにしてスリリングな映像を完成させていった。

 6枚の翼を持つ主役メカのスティングレイ(あのウィングのラダーが水中での高機動力、運動性を生むのである)は、デレク・メディングスのデザインでマスター・モデル社出身の天才モデラー、レイ・ブラウンが3フィート=約91.4cmの大型モデルと、ロング撮影用のミニサイズを制作。多用された18.5インチ=約47cmの中型モデルは、のちに、サンダーバード2号やスーパーロールスロイスFAB−1の造型を手がけるマスター・モデル社のアーサー・“ワグ”エバンスが造型した。海底人の魚型潜水艦メカニカル・フィッシュは、メディングス自身が紙と木片をつなげて、船体がしなりながら進む動きを確認してデザインを完成。オープニングのスティングレイとともに、海上に飛び出すワイヤー・ワークは、一発で撮影OKとなった、メディングスお気に入りのカットだ。

 同じくメディングスがデザインしたマリンビル基地は、『宇宙船XL−5』で、はじめて社内造型モデラーとなったエリック・バックマンが紙と木片、鉄道模型やプラモの流用パーツで造型。地下へ降下する特撮シーンは、メディングスとブライアン・ジョンソンの指揮下、水圧装置で駆動させ、ジミー・エリオットが撮影して完成させた。基地全体が移動する科学要塞のイメージが圧巻で、トロイ艦長たちがイスに座ったまま、地下の格納ドックへと緊急出動してスティングレイの操縦席にドッキングする(カチャッと固定装置が出るのが本当にスゴイ!)連続カットの映像設計が見事。この出撃スクランブル・シーンにかかるバリー・グレイの音楽は、まさに、『サンダーバード』の序曲で、日本特撮やロボット・アニメのいわゆる----“ワンダバ”出撃シーン----は、ここから開幕したとも言えるだろう。

 水中の航行シーン、WASPの飛行メカの操演シーンのレベルアップを受けて、メディングスは、『スティングレイ』のシリーズ後半で、新しい特撮装置の購入に踏み切る。本格的な飛行メカニックの撮影のため、彼が特撮を学んだ師匠のレス・ボウイに相談して、「ぜひ、手に入れたほうがいい」と、後押しされていたもの。それは、造型のエリック・バックマンの友人、エズラ・ダーリングが紹介してくれた、ローリング・スカイを生み出す背景ロール装置だった。ベルト状のローリング背景が自在に回転し、飛行エフェクトを生むシステムだ。メディングスは、これを第29話「ウラナリ大王の挑戦」(日本放送第38話)の複葉機の空中シーンにテスト使用。この装置は、次回作『サンダーバード』で、大空を飛ぶサンダーバード1号、2号、ファイヤーフラッシュと、子供たちを圧倒する飛行イメージを生むことになる。

 こうして、完全な形でDVD化された『海底大戦争 スティングレイ』からは、『サンダーバード』につながるさまざまな可能性が見えてきて、改めて、驚かされるだろう。デニス・スプーナー、アラン・フェネルの明るく陽気な脚本とセリフは、ある意味、『サンダーバード』以上に、ユーモラスで、ペネロープとパーカーのやりとりが好きな方は、この作品がルーツだと必ず確信してくれると思う。日本語版のキャストも、トロイ艦長にのちに、『サンダーバード』で、バージルの声を担当する宗近晴見。フォンズには、ロカビリー歌手で、俳優としても軽妙な演技を見せていたミッキー・カーティス、サム司令官にアニメ『8マン』で警視庁の田中課長を演じた俳優の天草四郎、タイタン魔王で絶品の悪役演技を見せる熊倉一雄と、芸達者ばかりで、今見ても、役者陣のノリが実に楽しい。
 また、日本語版の第10話からは、当時、『アベック歌合戦』(62/YTV)の司会で、絶大な人気を誇っていたボードビリアンのトニー谷が、得意の珍妙なセリフまわしで、ナレーションを担当。これは、同じフジテレビ系放送の『宇宙船XL−5』が、クレイジーキャッツの谷啓のナレーションを加えて、『谷啓の宇宙大冒険』と改題された(第12話より)流れを受けたものと思われるが、フジテレビのマンガ、子供番組担当の新藤善之プロデューサーの仕事で、のちに『忍者部隊月光』(64)、『戦え!マイティジャック』(68)、『恐怖劇場アンバランス』(73)を担当する新藤プロデューサーの初期の仕事だった。オリジナル原語版もユーモア設計が本当に楽しいシリーズなのだ。日英双方のノリのよさを満喫してほしい!
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