2018/06/16

再録 『スタートレック』そのメカニックの魅力

 以前、スーパービジュアルの『謎の円盤UFO』の中で、『2001年宇宙の旅』(68/監督:スタンリー・キューブリック)の各メカニック、そして、『謎の円盤UFO』(70/NTV)のインターセプターが、流体力学的な流線型メカの常識を打ち破った双璧ではないか、と書いたところ、読者から、「あの“エンタープライズ”を忘れるとは、何ごとですか!?」という熱心な手紙を受け取った。実は、あれは10年なり、30年なり、近未来に確実に実現できそうで、しかも、理にかなった先の二者のリアルさの衝撃を書きたかったのだが、この読者のいいたいことも十分に納得できる。思えば、SF映像は、1960年代に突入し、新しいメカニック感覚をいくつも生み出しはじめていた。映画でいえば、アーウィン・アレンが製作・監督した『地球の危機』(61)に登場した原潜・シービュー号、20世紀フォックス映画の『ミクロの決死圏』(66/監督:リチャード・フライシャー)に登場した潜水艦・プロテウス号、そして、MGM映画の『2001年宇宙の旅』、そして、映画以上に活発化したのが、TV界だった。

 アーウィン・アレンが製作した『原子力潜水艦シービュー号』(64/NTV・東京12チャンネル)の第2シーズンから登場した飛行潜水艇・フライング・サブ、そして、新シービュー号、『宇宙家族ロビンソン』(66/TBS)に登場する宇宙船・ジュピター2号、探検車、ロボット・フライデー、『タイムトンネル』(67/NHK)に登場する地下800階に存在する航時機・タイムトンネル、『巨人の惑星』(69/東京12チャンネル)に登場した大気圏外を飛行し、人々を高速で運ぶロケット・スピンドリフト号、そして、ロッデンベリー製作の『スタートレック』(69/NTV)に登場したUSSエンタープライズ……米ソの宇宙開発が活発化し、アポロ計画が着々と進行していった1960年代後半、SFメカは次第にリアルに、そして、存在感を強く持ちはじめていたのだ。同じころ、イギリスでは、ゲーリー・アンダーソンのチームが続々と、SFメカを生み出している。『海底大戦争』(64/フジテレビ)に登場する原子力潜水艦・スティングレイ、『サンダーバード』(66/NHK)の国際救助隊メカにゲストメカ、そして、『キャプテンスカーレット』(68/TBS)、『謎の円盤UFO』、『スペース1999』(77/TBS)と、その姿勢は、ここ10年以上にわたって首尾一貫し、そのメカ感覚は見事ですらある。そして、日本でも内外の影響を受け、東宝SFで、独自で生み出してきたメカ感覚の流れの中で、『ウルトラセブン』(67/TBS)、『マイティジャック』(68/フジテレビ)というひとつの頂点を円谷プロが生み出していた……“メカニックSF”というものが、もし、存在するものならば、1960年代後半は、アメリカ、イギリス、日本とも、映像的には、ひとつの頂点に達する感すらあったのである。

 その中でも、ロッテンベリーが製作した『スタートレック』は、ほかの作品と一線を画す驚異的な作品であった。

 400名以上の乗員を乗せ、光速をはるかに超えるワープ航法で、宇宙を飛ぶ宇宙パトロール艇・USSエンタープライズ、その全長は、優に200メートルを越える大型宇宙船である。このような巨大メカニックが宇宙を舞台に縦横に活躍する……およそ、空前絶後のスケールであり、“宇宙歴400年”という遠未来の感覚がこの設定を力強く支えていた。この作品のメカの魅力は、次の3つに絞れると思う。

1.  エンタープライズのデザイン

およそ、あまたの宇宙船あり、といえどもこのUSSエンタープライズほど、独特のフォルムを持つ宇宙船はないのではないか。その居住区となる円盤形の第1船体、葉巻のような第2船体、両側に突き出た2本のワープ・エンジン……この作品が日本へ紹介された時、ある少年雑誌に至っては、エンタープライズの写真を上下逆さにして掲載してしまった。それも無理ではない、と思うほどのデザインで、その科学考証的な賛否をおいても、視聴者を十分にひきつける魅力を持っていた。また、その宇宙を飛ぶ特撮が、すべて合成によって行われており、その奥行き、そして、スピード感は、同種の番組の中でも屈指のものであった。エンタープライズ抜きに、『スタートレック』の魅力は、とても語れないのではないだろうか。

2.  小型メカの充実

エンタープライズが惑星の衛星軌道にとどまる設定のため、地表におりる乗員は、さまざまな小型メカニックを装備している。連絡のためのコミュニケーター、科学調査用のトライコーダー、生物反応をみるメディカル・トライコーダー、攻撃武器であるフェイザー・ガン、ハンド・フェイザー、ドクター・マッコイの持つ各種の医療器具、そして、修理用に登場する各種の工具メカ。コンパクトで、しかも考え抜かれており、かつてのSF映画の名作『禁断の惑星』(56)などにその原形がみられるものの、TVSFでここまでやってのけた作品となると、やはり、この作品以外には、存在しないと思う。宇宙歴400年代という未来感覚をこの小型メカの数々が支えていることは、想像にかたくない。そのさりげない使い方が日常生活の描写を支え、そして、宇宙時代のメカという雰囲気を生み出していくのである。

3. リアルなブリッジ

『スタートレック』の物語の大半は、その司令室ともいうべきブリッジで行われる。このブリッジが実に考え抜かれており、各班のチーフが勤務し、正面にメイン・スクリーンがあり、エンタープライズのすべての情報がそこに集結する。

 まさに、エンタープライズの頭脳ともいうべき場所なわけだが、舞台をそこに集結できるため、物語の展開が、実に、スムーズであり、多人数のレギュラーを常に一堂に会することができる、というTVドラマを作るうえでの利点も見逃すことはできない。このブリッジの感覚を映像で完璧にみせたのは、やはり、この作品からであり(原型が『禁断の惑星』や『原潜シービュー号』など、いくつかあるのはあるのだが)、『宇宙戦艦ヤマト』(74)や『スペース1999』などに、その大きな影響をみることができる。このブリッジの設計の見事さは、『スタートレック』の科学考証の正確さを実証する端的な例といえるのかもしれない。

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 エンタープライズばかりではなく、バード・オブ・プレイ、クリンゴン宇宙船、ドームズデイ・マシン、ソリアン宇宙船など、ゲストメカにも宇宙SF物の魅力とスケールを感じさせる印象的なものが多く、何度かあった宇宙船同士の戦闘シーンは、ファンの心をシビレさせた。

 『スタートレック』は、アメリカTVSF史上に輝く宇宙SF物の傑作である。人類と数多くの宇宙人が作りあげた宇宙文明の世界……大型宇宙船を駆って行われる調査とパトロール……それは、メカのひとつの極致のイメージではないだろうか。

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