2018/06/03

再録 『スタートレック』はこうして生まれた 第1回

 1949年に、ロサンゼルスの警察官となったジーン・ロッデンベリーは、職務のかたわら、TVのシナリオを書くという生活を続けていたが、そのシナリオの収入のほうが本職の警察の仕事より多くなったことに気づいた1954年、ジーン・ロッデンベリーは、警察を退き、フルタイムのTV作家となった。彼が脚本を書いた作品は、『ドラグネット』(51~59)、『フォー・スター・シアター』(52~59)、『ドクター・キルデア』(61~66)、『西部のバラディン』(57~63)(この作品は、ジーン・ロッデンベリーが脚本の主筆であった)、『ハイウェイ・パトロール』(55~59)、『カイザー・アルミニューム・アワー』、『裸の町』(58~63)、『ウェスト・ポイント』(56~)等多数、ロッデンベリーは、おしもおされぬTV作家に成長していった。

 そして、1963年、MGMテレビ作品『ルテナント』で、自ら創案、プロデューサーも担当し、製作者としての技量も見せはじめた。そして、このころから、ジーン・ロッデンベリーは、本気で『スタートレック』の検討をはじめていたのである。一年で終了した『ルテナント』にかわる作品をMGMテレビは求め、ロッデンベリーが提出したものこそ、『スタートレック』のはじめて世に出た設定書だったのである。時に、1964年3月11日、16ページの『スタートレック』の設定書がそれであった。

 この設定書は、バランタイン・ブックの『THE MAKING OF STAR REK』に収録されているため、現在でも容易に読むことができるが、細部が一番最初のものとかえてある。USSエンタープライズの名がUSSヨークタウンであったとか、ナビゲーターの名がタイラーではなく、オルテガであったとかの部分である。

 また、バランタイン・ブックの同書には、収録されなかったが、この『スタートレック』のはじめの草案には、25の可能なエピソードのタイトルと短い内容が記されていた。いい機会なので、そのタイトルと実際の作品への移動を記しておこう。

1 “The Next Cage”
2 “The Day Charlie Became God”
3 “President Capone”
4 “To Skin a Tyrannosaurus”
5 “The Women”
6 “The Coming”
7 “The Perfect World”
8 “Mr. Socrates”
9 “The Stranger”
10 “The Man Trap”
11 “Camelot Revisited”
12 “100 A. B.”
13 “Kentucky,Kentucky”
14 “Reason”
15 “Reason Ⅱ”
16 “A Matter of Choice”
17 “The Radiant One”
18 “The Trader”
19 “A Question of Cannibalism”
20 “The Mirror”
21 “Torx”
22 “The Pet Shop”
23 “Kongo”
24 “The Vanus Planet”
25 “Infection”

 1の“The Next Cage”と16の“A Matter of Choice”は、組み合わせて最初のパイロット・フィルムの“The Cage”となり、2の“The Day Charlie Became God”は、第2話の「セイサス星から来た少年」“CharlieX”、5の“Women”は、第6話の「恐怖のビーナス」、“Mudd‘s Women”、10の“The Man Trap”は、第15話の「おかしなおかしな遊園惑星」“Shore Leave
”等々、ほかにも数本あるが、『スタートレック』のイメージが、もうこの時期で、かなり正確なものになっていることがわかる。まさに、『スタートレック』こそロッデンベリーの作品なのであった。

 エンタープライズの船長がまだこの時期は、ロバート・T・エイプリルで、不屈の強さと多彩な個性を持つ船のリーダーである、と書かれていた。この言わば、のちにパイク、カークとなるキャラクターは、その人物の部分に、“宇宙世代のホレイショ・ホーンブロワー艦長”とあり、人間的な魅力をかねそなえて、失敗もすれば、恋もする主人公を狙っていたことがよくわかる。

 U・S・Sエンタープライズは、ここでは19万トン、人員203名、動力としてスペース・ワープを使用し、アメリカの地球の宇宙船の所属と紹介されている。
 この企画書で興味深い点は、“この物語の設定は、宇宙の幌馬車隊である”という部分であろうか。異なる世界を旅する主人公達は、危険や冒険と出会い、そこに物語が展開する----アメリカ人になじみ深いこのようなイメージは、『スタートレック』の原的イメージを見るようでなかなか楽しい。

 この銀河全体や登場人物、狙いなどを詳細に記した企画書は、MGMテレビに提出されたが、そのテレビ化の話は、結局、あがらず、ロッデンベリーは、この企画を『アイ・ラブ・ルーシー』(51~57)で知られる独立プロ、デジル・プロへと持ちかけた----。
 デジル・プロの仲介で、三大ネットワークのひとつ、CBSから好意的な反応をひきだしたロッデンベリーは、会長をはじめ、重役陣のいならぶ中で、二時間も熱弁をふるい、SFテレビは妥当な制作費で制作でき、十分視聴者もひきつけられると力説した。そして、ロッデンベリーは、内心ついに売り込みに成功したと思った。ところが、その重役のひとりは、こう言ったのである。

「なかなかいい企画だ。しかし、残念ながらこちらは、もっと気に入った作品があるのだ。しかし、君が来たことは評価している」
 と。その作品こそ、アーウィン・アレン製作のSFテレビ『宇宙家族ロビンソン』だったのである。
 しかし、捨てる神あれば、拾う神あり。1964年5月、もうひとつの三大ネットワークのTV局であるNBCの番組担当重役が、この企画に関心を示し、『スタートレック』の設定を使い、二万ドルの稿料つきでパイロット・フィルム用のシナリオを三本書くように指示してきたのである。

 ジーン・ロッデンベリーは、ただちにシナリオを三本執筆し、その中の一本“The Cage”が選ばれて、パイロット・フィルムが製作されることになった。
 ようやく、ジーン・ロッデンベリーが目ざす大人の鑑賞に耐える、レギュラーを持ったSF連続娯楽ドラマがその一歩を踏み出したのである。

 物語は、第11、12話「タロス星の幻怪人」の中で描かれる18年前の部分で、最後のシーン、四本足の怪物を除いては、ほとんど原形通り。最初のストーリー・アウトラインが6月29日、シナリオ第一決定稿が9月8日、光学合成着手が9月、作品の完成が11月後半から12月初旬というスケジュールであった。船長は、ロバート・T・エイプリルからクリストファー・パイクに変更、船内の乗員も設定と少し変わり、ミスター・スポックが大きくクローズアップされはじめた。しかし、このパイロット・フィルムは、NBCのお気に召さず、セカンド・パイロット・フィルムとして、船長をSFや恐怖もののTVにはなじみが深いウィリアム・シャトナー演じるジェイムス・T・カークに変更、コスチュームもさらに明るく軽いセーター型となって、“Where No Man Has Gone Before”が製作されたのである。ロッデンベリーがラフでこの2本目の話を書いた時のタイトルは、“The Omega Glory”であった。この物語の脚本は、NBCのヒット西部劇シリーズ『西部の対決』(60)の脚本を書いていた、古参のSFファンで作家のサミュエル・A・ピープルスが担当した。

 シリーズの決定は、1966年まで持ち越されたが、このセカンド・パイロット・フィルムによって、NBCはOKを出し、出演陣もさらに整理が加えられ、ジョージ・タケイ演じるスルー、デフォレスト・ケリー演じるドクター・マッコイ、カークの秘書であるジャニス・ランド(グレース・リー・ホイットニー)の登場を迎え、いよいよ『スタートレック』は、その出発点に立ったのである。

 ジーン・ロッデンベリーの長い間の願いは、ようやくその実を結ぼうとしていた。ロッデンベリーは、この企画さえ通れば、SFをフルに利用し、TV界が持つさまざまな障害を越えられると考えていた気配がある。事実、アメリカTV界は、野心的な作家にとって、横たわる障害は大変な難物だった。

『ミステリー・ゾーン』(59~64/原題:『The Tilight Zone』)のプロデューサーであり、ライターでもあるロッド・サーリングが“Noon Of Doomsday”というシリアス・ドラマを書いた時などは、その典型とも言うべき形になっていた。このドラマは、南部のミシシッピー州で起こった黒人青年の殺人事件を描いたものだが、白人と黒人の対立問題は描くべきでないとか、南部を舞台にするべきではないとか、南部の主要飲料であるコカコーラには一切触れるな……という局側やスポンサー側の圧力のため、黒人をユダヤ人に変え、南部をニューイングランドに改め、いろいろ手直しをしたために、ドラマがメチャクチャになってしまったということが起こった。アメリカTV局に現実として存在する思想上、政治上、人種上の各種の制限が(スポンサーや局のからみが)、まさにドラマの息の根をとめてしまったのだ。ロッド・サーリングが『ミステリー・ゾーン』を製作するに至るのは、この障害との戦いにアキアキしたからだという意見もある。スポンサーや放送局は、SFやファンタジー・ドラマなどの寓話でならば、どんな重いテーマ、辛辣なストーリーもやすやすと見逃してくれるからだ。ここにSFを使おうとする者とSFのみを描こうとする者の差が出てくる。そして、ジーン・ロッデンベリーもまた、SFをフルに使って、彼が常日ごろ、考えていたさまざまな問題(それは、当時のアメリカTV映画では描けなかったベトナム戦争への怒りや政治の暗部、人種差別や偏見、セックスなどいろいろなものを含んで)をSFを通して語りはじめたのである。

『スタートレック』がなぜ、すぐれているのかという検討を続けていくと、その物語のテーマ性が浮かびあがってくる。連続ドラマでありながら、各エピソードにつけ加えていくテーマの数々は、それまでの子供向けのSF番組からは考えられないような知的なものであった。
『スタートレック』は、言わば、普通の大人が見ても、知的に満足できる作品をめざしたのではないか。随所の各キャラクターの会話の妙は、同種のSF番組の中では考えられぬ異色なものであったのである。

『スタートレック』は、1966年TVシリーズ化が決定し、プロジェクトが動きはじめた。それからの展開は、次号、さらにその次の号で触れていくことになろう。次号には、特撮にも少し触れる予定だ。

初出『スーパービジュアルマガジン スタートレック大研究11981


(つづきは2018年6月16日から)


1 件のコメント:

  1. <Facebookより転載>私がスタートレックのファンではないと、フェイスブックで書いたら、親しい友だちからしっとったよとメールをいくつももらいました。バレてたかぁ。徳間書店のスーパービジュアルマガジンでアメリカTVの中でどういう位置にあるのか、SFファンが考えているスタートレックの評価はどう思っているのか、ともかく全能力を上げて、書いてみた。スタートレックのファンに聞いたら、カラー写真以外見てないので、読んでいませんと言われて、笑ってしまいました。まあ、そんなもんですね~。池田憲章の外国TVメモランダムに再録しておいたので、スタートレックの放送された時代の中でどう見られていたのか、スタートレックファンがあまり書かない視点を書いておいたので、読んでみてください。(^。^)

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