2017/08/28

第28回 ノイローゼになったネルソン提督

 『原子力潜水艦シービュー号』のネルソン提督を演じたリチャード・ベースハートは役者から一目置かれるシェークスピア劇出身の映画俳優でイタリアのフェデリコ・フェリーニ監督の『道』、そしてメルヴィル原作でジョン・ヒューストン監督入魂の『白鯨』(グレゴリー・ペックがエイハブ船長を演じ、脚本をSF作家のレイ・ブラッドベリが執筆した)に出演、『ミステリー・ゾーン』や『ルート66』とTVドラマでも異色のゲスト俳優で別格の存在だった。

 『白鯨』の撮影がイギリス沖の実際の海での長期ロケだったため、ベースハートは『シービュー号』も世界の海に行くのかと思っていたら、艦内セットばかりの撮影が意外だったらしい。本格的な演技派の役者で、だんだん増えてくる(評判になったからだが)モンスターと戦うストーリーに「俺は何をやっているんだ?」とだんだん悩み始め、酒を飲んで体調を崩して撮影も休み始めた。

 ゲストで出演した旧友のジョン・アンダーゾンはベースハートの様子が変なのに気づき、事情を聞くと「毎週怪物ばかりでこれは役者の仕事じゃない!」と告白した。ジョン・アンダーソンは『アウターリミッツ』で宇宙人のヌイグルミに顔だけ出してキャラを演じたこともあって理解しながら「リチャード、僕の役は君が相手なんだぞ」と話すとベースハートは「悪かった。君の言う通りだ。悩む問題じゃない」と演技をやり通した。でも内心は悩み続けた5年間だったという。

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