2017/08/30

第53回 『逃亡者』のうまさとは何?

 『逃亡者』(1963-67)のうまさは毎回オープニングで暗がりの中を逃げていく片腕の男の映像をはっきりと視聴者に見せて、真犯人でないにしても「彼は何かを知っているはずだ!」と思わせ、ジェラード警部はなぜ信じてやらない、気づかないのかとイライラさせる点でリチャード・キンブルに肩入れしてしまう点にあった。

 キンブルはアメリカのあらゆる東部、西部、南部の町に入り込むわけだが、町の名士といわれる町長や社長が家庭では実は暴力をふるって妻や子供を殴り、あるいは保安官が自分の利益だけを考える汚職警官だったり、黒人への差別主義者だったり・・・それを見過ごせない男として設定してあって、目だってしまうと「こいつ何者だ?」と正体がバレそうになってサスペンスが高まるのだが、アメリカの社会全体のモラルが実はもう壊れ始めているのではないか・・・ということを作品の中で予見することとなった。クライムドラマであると同時に社会派ドラマの性格を纏っていて『逃亡者』を見ながらまさに現代の何かをスケッチしてみせるのがそのスゴミであった。

 リチャード・キンブルを演じるデビッド・ジャンセンは一代の名演で、控え目で目立たないドラマの前半パートと誰かを守ろうとする怒りにも似た迫真の後半パートに「うまいな~この人」とうならせる演技とセリフを見せた。アメリカテレビドラマ史上に残る仕上がりであった。

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