2017/08/28

第29回 アレンの念願だったクレイン艦長

 映画『地球の危機』にとりかかった時、アーウィン・アレン監督はクレイン艦長をデヴィッド・ヘディソンにやらせるつもりだった。

 ヘディソンは、20世紀FOXの映画でフランスの作家ジョセフ・ランジュラン原作の『蝿男の恐怖』で、物質電送の実験中に蝿が入ってきてしまい、蝿と人間の細胞が合体してしまう主人公を演じて、異色のホラーSFをその演技力で支え続けた。前年の『失われた世界』では主役である新聞記者マローンを演じ、アクション、表情とアレン監督はお気に入りであった。ところが20世紀FOXがヘディソンに廻す役柄はアクションや軍人ばかりで、もっと演じがいのある役柄を求めていたのだ。

 ヘディソンは『地球の危機』のシナリオを読んで「これはシービュー号が主役で艦長は脇役だ」とアレンに出演を断ってきた。「もうアメリカは嫌だ」と友人のロジャー・ムーアをイギリスに訪ねて、イギリスなどのヨーロッパで、ヘディソンは俳優を続けていた。

 カンヌの映画祭にいた時、アーウィン・アレンはデヴィッド・ヘディソンに『原子力潜水艦シービュー号』のクレイン役で出演してくれと電話をし続けた。断り続けたヘディソンだが、アレンの「ネルソン提督役はミスター・リチャード・ベースハートにやってもらう」という言葉に「え、ベースハートとTVで共演できるのか?」と一変。クレイン艦長を伸び伸び演じるヘディソン。そこには名優と共演する役者の満足感があった。

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